マーティン・ヘイズの哲学 7

「では、どんな伝統音楽が良い伝統音楽と言えるのだろうか。それを考える時、僕はMartin Rochfordのような人々を思い出さずにはいられない。彼のような人たちは何が良いものか分かっていたし,同時にとても主観的でもあった。アイリッシュ・ミュージックのコンテストで、審査用紙を見れば書かれていることの50%は“伝統”と呼ばれる何かだ。だけどそれは本当は“主観的な考え方”と呼ぶべきであり、それが多くにおいて良い音楽の達するべきものなのだ」

「“伝統”という言葉は積み荷をしょわされている。ドニゴールの伝統はクレアのそれとは違うし、ケリーの西か東かによっても違ってくる。どこに行っても、それは異なっている。例え同じ地区の出身者だとしても、伝統とは何かということに対して、皆、それぞれとても広い範囲の視野を示す」

「“オーセンティックな”とか“本物の”という形容詞を付けるとき、伝統は、アイルランドの伝統音楽という音楽的限定に留まるよりも、さらに多くのものを包括している可能性がある。僕らはそういうもの相手にしているのだ。“オーセンティック”はあなたの先祖の声を代弁しているのかもしれない。模倣のプロセスによって同じものを再度クリエイトすることがオーセンティックと言うこともあるかもしれない。しかしそれはプレイヤー本人にとっても、芸術家として人間として完全に嘘のないものであるべきなんだ。演奏家は、伝統という情報を与えられていると同時に、伝統というものを敬っていると同時に、あなた自身の芸術的な衝動にも従うべきなのだ。それこそが、僕の意見では、このアイルランドの伝統音楽ということにおいて、もっともオーセンティックな音楽の道であると考える」

「しかしここでもまた何がオーセンティックなのか、矛盾があちこちにあらわれる。何が良い伝統音楽で、何が悪い伝統音楽なのかという質問はさらに複雑さを増すことになる。牧師たちが学校で教えてくれたように、僕らは皆、善悪の観念を持つ。あなたの音楽の選択のモラルは、あなたがどれだけ知っているかにゆだねられる。もしあなたが悪い音楽を演奏しているのだとしたら、あなたは自分が演奏している悪いものと良い音楽の違いが分からないかもしれない。それはそれで幸せなのかもしれない。つまり、それは、あなたが伝統音楽のモラルというグレイな領域に歩み入った時に、初めていろいろ見えてくるものなのだ」

「そこには他にもミューズ(音楽の女神様)という不確定な実態のない、しかしながらインスピレーションの源となる、音楽の基本的な動機を起こさせる力も存在する。多くの議論において、これらは無視されがちだ。なぜならそれは既成の抽出条件には当てはまらないからだ。それは伝統なのか? はたしてフィドル演奏の“禅の思想”を語ることは許されることなのか? 僕はそれこそが伝統だと主張したい。それは、僕らが心や感情を、そして音楽の精神的な意味を考えることと同じだと主張したい。例えばトミー・ポッツの音楽はまったく前例がないものだが、彼の音楽は伝統音楽なのかと言われれば、僕は熱烈に“そうだ”と主張したいのだ」

「誰も疑問に思わない固定観念が存在する。これが伝統音楽のあるべき姿だよ、と演奏されているものを聞くように提案してくる固定観念だ。しかし、それはパラメータによって決定された単なるシンプルな民主主義の賜物でしかない。僕はそれよりも音楽における本物のイノベーターたちに敬意を表したい。セッションなどでぼんやり聴く音楽ではなくトミー・ポッツとか、ウィリー・クランシー、ジョニー・ドハティ、そしてポードリック・オキーフなどの音楽だ。僕らはアイルランドの伝統音楽のメインストリームから少し距離をおいて、どうして我々がこのような固定観念を持つに至ったのか、よく考える必要があると思う」




<マーティン・ヘイズ&デニス・カヒル来日公演>
11/3(土)トッパンホール with 田辺冽山 当日券あり! 18:30開演
11/5(月)小諸高原美術館 白鳥映雪館 18:30開演
11/6(火)名古屋 秀葉院 当日券あり! 19:00開演
11/8(木)京都 永運院 当日券あり!  19:00開演
11/10(土)松江 洞光寺  18:30開演
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