Introducing John Smith 4 

から続く)またライナーで五十嵐正さんが指摘しているとおり、ジョンは晩年のジョン・マーティンやデイヴィ・グレアムにもその才能を高く評価されていた。「英国フォーク界の巨人二人にバトンを渡された若者」と言う五十嵐さんのライナーの言葉に私は膝を打った。そう、英国フォークはずっと続く。音楽が売れないとか、CDが売れないとか、いろんなことを周りの人は言うが、これからも英国フォークは、ずっと続いていくだろう。それは音楽ビジネスがこんな形になるうんと前から存在していた。そして、これからはジョンやその他の素晴らしい才能の新人たちによって引き継がれていくのだ。だからこの時期にジョンが日本でもたくさんの人に聞いてもらえるのを手伝えるというのは本当にすごい事だ。音楽の世界はいい。こうやって、新しい子をやると言えば多くの人たちがアドバイスをくれ応援してくれる。それはもう昨日今日始まったもんじゃない、何百年と続く1つの大きな流れの一部なのだから。この偉大なる音楽の前ではすべてが小さい。だから本当に数は少なくてもいいから、熱心な日本の音楽ファンにジョンの音楽が少しでも認められるといいなと心から思う。実際、現在のイングランドのフォーク界には本当に素晴らしい才能が多い。ジム・モレイやセス・レイクマンなどアイルランドよりもずっと面白い才能たちが次々と出現してきているのだ。ジョンがうまくいったら、他にも紹介したいアーティストは山のようにいる。

その後、ジョンのアルバムはという英国フォークにおけるWebの最重要メディアにおいて、年間ベストアルバムに選ばれるという快挙を成し遂げた。リスナーの純粋なる投票によって選ばれる名誉な選出。ジョンも嬉しかったに違いない。

4月になって、ダブリンで始めてみたジョンのライブは、本当に圧巻だった。「Invisible Boy」でコンサートは静かに静かに始まった。心にしみいるような音楽だった。20代ならではの「悩み」や「迷い」に溢れるジョンの作品だが、そこがうんと年上の私の心にも共鳴していく。私は「自分はいつまでたっても大人になれないな〜」と思いながら、ジョンの歌を聞いていた。っていうか大人になっちゃったらこういう音楽はもうプロモーションできないのかもしれない。もういいや、一生子供で(笑)

ジョンは、これが自分の初めてのダブリンでのヘッドライナーのギグだと話していた。過去2回ダブリンで演奏しているが、それは他の人の前座だったという。会場はUpstairs of Whelansと呼ばれる小さな場所でお客の数はほんの50人くらいだった。が、ダブリンのバーにしては本当に珍しくお客さん全員がものすごく熱心にジョンの演奏を聴いていたのが印象的だった。じゃべり声なんて一切なかった。これはダブリンで飲み物を出しながら営業している小屋ではかなりレアな事だ。たぶん次にダブリンでジョンを観る時は、おそらくジョンはWhelansの、しかも下の会場(300人くらいのキャパシティ)で演奏するに違いない。だからこの段階でジョンに出会えたこ幸運が嬉しかった。お客さんの中には、今ダブリンでもっとも注目されている女性アーティストのリサ・ハニガンの姿もあった。後で聞いたら、なんとマネジメントが一緒なんだって。ロンドンのオフィスで、たった3人で運営しているのよ、とマネージャーは笑った。リサ・ハニガンと、デイヴィッド・グレイと、ダミアン・ライス、そしてジョンの4人をマネジメントしてるんだって。うわ〜、すごいメンツ!

日本へのプロモツアーが確定し飛行機も押さえた後、なんとジョンはヴァン・モリソンの前座をやらないかというオファーを受けたそうだ。残念ながらその話はこの日本へのプロモ来日のために流れてしまったけど、マネージャーは「本当にやって欲しいなら、また話がくるから」と前向きにそのことを考えていた。いよいよ英国が、世界が、この若者の才能に注目し始めている。

2010.6.23
THE MUSIC PLANT 野崎洋子