すごすぎるマイケルに、いろいろ刺激を受ける

先日までご存知のとおり私はケルティック・クリスマスのツアーをお手伝いしていた。普段一人自営プロデューサーで、自分が自分のボス。仕事は自分で作るものというのが身上の私は、滅多に人の仕事はしないのであるが、プランクトンさんだけは別である。社長でプロデューサーの川島さんが、私のことをよく理解してくれた上で仕事をふってくれるから。そして川島さんのツアーは本当に面白くて、かつものすごいく勉強になるからだ。

そして今年はまた特別なものになった。普通のツアーだけではなく、アイルランド大使館と被災地訪問ツアーのお手伝いをすることになったから。ちなみにリアムとアヌーナが被災地訪問している間、ステップクルーは絶賛全国ツアー中。あぁいうダンサーもいて、バンドもいて、と言うビックプロダクションなツアーは本当にスタッフの数が必要となる。これはもう絶対にスタッフが足りないというわけで、私は動員され成田空港からアヌーナ付きとなった。

マイケルと仕事をするのはこれで2回目だ。アヌーナ自身は4回目の来日だと思うが、1回目の時はコンサートにすら観に行かなかったと思う。でも2回目の来日の時、マイケルが私がやっていたラジオに出演してくれて、その時に出会って、いろんな話を聞き、本当に面白い人だなぁと思った。その後3回目の来日時に急遽焼津公演のワークショップに日帰りで通訳に入ってほしいと言われ、ホントほとんど初対面という中、手伝った。そのワークショップで、私はもう完璧にマイケルのファンになってしまった。そして今回は被災地での詳細のツメもあったので、現場だけではなくツアーが始まる前からメールのやりとりも手伝わせていただいた。

それにしてもマイケルは濃い。そして本当にマイケルには毎回驚かされる。ステージに対する熱意、そして頑張り、すべてに頭がさがる。これだけのメンバーをまとめ、すごいリーダーシップを発揮し、お客さんへ自分たちの音楽を届ける。相手が子供だろうが、いっさい手を抜かない。人にスバッと「NO」とはっきり言う。それじゃだめだ、といつもダメだしをしている。その決断力、嫌われることを恐れないパワーったらタダ者ではない。ツアーのスケジュールはものすごくハードで、ホントに大変だったが、私はマイケルにパワーをたくさんもらった。私は頑張る人が好きだ。ホントにマイケルは頑張る。だから私も疲れてなんかいられない。

そしてなんといってもあのユーモアのセンスが抜群なのである。ホントに毎時毎分毎秒笑わせてくれる。時には笑うことが許されずシリアスで超真面目な場面もあるわけなのだが、私はつねにお腹の中で爆笑していた。ホントに面白すぎるんだ、マイケルは! そしてそういうところがとってもアイリッシュだと思う。

マイケルはアイルランド、そして伝統音楽に対して複雑な気持ちを持っていて、それについてはアヌーナのツアーパンフに掲載された松山晋也さんの素晴らしいインタビューを読んでほしい。あのインタビューはいろいろ経緯があって、私が文字起こししたので、すごく内容を詳細まで覚えているが、起こしていてもものすごく面白い内容の素晴らしいインタビューだった。そういう愛憎入り交じる不思議なアイルランドへの感覚。そしてアヌーナ、音楽に対する思い。とにかくすべてに共感できるのだ。

それにしても今回の被災地訪問は心に残るものとなった。大好きな通訳の染谷さんも同行してくださり、それが本当に心強かった。そして被災地で分かったのは、自分はどんな場所においても、結局いつもの自分だということである。絶対にエモーショナルになるかなという事も考えたが、でもそんなことはまったくなく普段の自分の、まったく普段の仕事モードだった。確かに学校で子供たち相手という、普段と違うシチュエーションにかなりのテンパリ・レベルではあったが(笑)、それでもいつもの、普通の仕事モード。「次はどういう段取りだっけ」「アーティストにキューださないと」「あ〜いかん、あれの手配が出来てない」「えー、それ聞いてないよー」「●●君、どこいったー?!」「それいったい誰がやるのー?!」「今,荷物移動させないとー、どうなってんのこれーっっ」みたいな事であっちへこっちへ走り回る、本当に普段の、まったく普段の現場だった。そして子供たちはめちゃくちゃ明るくて元気で、ミュージシャンたちに楽しそうにまとわりついていた。写真もたくさん撮った。マスコミの人もたくさん来た。三大新聞はもちろんテレビやラジオまで来てくれて、沢山の媒体に載った。

リアムもアヌーナも普段の自分で勝負していた。「それだけ自分のやっている事を信じているんだね」と染谷さんが言った。本当にそうだ。私もメソメソしたりせず普段の自分で仕事が出来たと思う。いや、被災地ツアーって言ったって、ゼロから企画した川島さんたちの苦労に比べたら、そして継続的に活動している山口洋のチームの皆さんに比べたら、私が参加した部分は、多少組み立て段階から関わっていたとはいえ、すべてお膳立てされおり、まったく甘いもんだと思う。普段自分でゼロから立ち上げている自分だから、ゼロから企画した人の苦労はよく分かっているつもりだ。お膳立てされたもんに乗っかるのなんて楽勝だ。が、それを差し引いても本当に良い経験をさせていただいたと思う。

いわきでは公演のあと、ホールの担当者の前田ペコりんが被災にあった港のエリアを案内してくれた。ペコはえらい。ペコはいわきでずっと頑張っている。ペコが言った「漁師の人たちはまた漁がしたいんです」という言葉にグッと来た。染谷さんがペコの説明を完璧な英語にしてくれて、ミュージシャンたちも神妙な顔つきでバスの窓から外を眺めていた。私たちのツアーバスに同乗したアイルランド大使も、ここぞとばかり積極的に質問していた。大使はなんと自分で車を運転して被災地に足を運んだのだそうだが、しっかり地元をガイドできるスタッフと通訳がつくことはなかったのだろうと察する。その後、私たちの打ち上げの居酒屋にも自ら進んで参加され、気さくにミュージシャンと一緒に話をしてらした。そして、アヌーナは居酒屋で何曲か歌った。隣の席から拍手があがる。本当に楽しい夜だった。居酒屋は単なる坐ワタミだったのだけど、大使は「こんなメニューははじめてみた。日本のレストランは普通一つのメニューを出すのではないのか」とおっしゃっていた。そんなとき、ちょっと「やっぱ大使は大使だな」と大使の事を可愛く思った。アイルランド大使を居酒屋デビューさせちゃったよ! アイルランド大使、最高! アイルランドの皆さん、あなたたちの大使は本当に素晴らしい。本当に誇りに思っていいと思う。ありがとう、アイルランド。ありがとう。

そして文化放送のレポーターとしていわきまで来てくれた五十嵐正さんのこのツイートがすべてを表していると思う。五十嵐さん、文化放送さん,本当にありがとう!

「本日の「くにまるジャパン」出演ですが、最後にまとめとして話す箇所がおしちゃって急遽カットになり、一番大事な話ができず、関係者にも申し訳ない。僕が話したかったことは、リアムやアヌーナのようなアーティストを子供たちに聞かせられたことは、1回だけの体験でなく、今後の子供たちの音楽との付き合い方に良い影響を与えられたのでは、ということです。現代の我々の日常的な音楽への接し方は聴いて楽しむという受身の消費行動が大半です。アカペラのコーラスを聞かせるアヌーナ、ウィッスルやバウロンと歌声だけで自分の世界を作ってしまうリアム。彼らは音楽が与えられるものでなく、自分(たち)の声と肉体で作り出すものという原点を改めて教えてくれます。それを記憶の片隅に残した子供たちは音楽を人生の良き伴侶としてくれるのではないか、と思うわけです。さっそくリアムからティンウィッスルのレッスンを受けた子供たちもいるわけですし」くにまるジャパンのブログでのレポートはこちら!


そして……その後に続くツアー。被災地での事は入念に打ち合わせを重ね、自分もホールの人と直接メールや電話をして大丈夫だと思っていたが、どうしてもどうしてもそれだけで頭がいっぱいになってしまい、東京以降の事は打ち合わせもホロロでツアー本番が始まってしまった。いつも「日程表渡されて、いきなり本番はいやですよ、打ち合わせ一回はやってよね」とプラクトンの人たちに言っているのだが(笑)でも、どうしてもそうなる。直前まで変更変更の繰り返し。より良い公演にしようという川島プロデューサーの妥協なき戦い。スタッフの私たちも必死でついていく。

そしてワークショップだけではなく、マイケルの指令で本番のコンサートでも通訳を入れるということになり、地方では、なんと私がそれを担当することになった。それにしても通訳は難しい。マイケルが最初に「通訳のヨーコです。今日は特別なコンサートなので、I dressed up her specially」と言って紹介してくれて、私がいつものスクラッフィーなスタッフ・モードの作業服でステージに出て行くのだが、ここが掴みのジョークなので、なんとか上手に日本語にしたいが、うまくお客さんに伝わらない。最初は「ドレスアップさせました」と訳したのだけど、いまいちウケなかった。「今夜は特別に彼女が持っている一番いい服を着せました」と言ったら少し通じたかな。うーん、染谷さんなら、こういうのもっと上手にできるんだがなー。実は通訳は英語よりも日本語の方が圧倒的に難しいのだわ。

ステージのマイケルは打ちあわせとまったく関係ないことをしゃべりだすのでホントに緊張した。ちょっと慣れて来たと思ったら、新潟でマイケルに「Now we are finishing this concert with next song」「This next song is the last song」とか、同じことを何度も何度も英語で言われ、「きーーーーーーっっっ」となった。あれもホントに上手にお客さんにもジョークが分かるように訳してあげたかったな。でもお客さんは私が困っているが分かって喜んでたみたいだけど。それにしても悔しい。マイケルと太刀打ちできるようなジョークのセンスを身につけたいと本当に思う。

とまぁ、通訳業はさんざんだったが、結局のところ、いろいろ失敗をしながらも、少ない人数で、居るスタッフで、すべてを回すしかない。だからどんなことでも誰かがやるしかないわけだ。私の感覚だとこのツアーは5、6人くらい東京のスタッフが付いてもよいと思う。それを3名で回しているわけだから、しのごの言ってられない。スタッフを多くつけると赤字になって、企画自体がたちゆかなくなる。だから、とにかく進めるしかないのだ。マイケルがいつも言うように「時間は通りすぎていく、そして二度と帰ってこない」そういうことなのだ。

それにしてもマイケルはすごい。なんでも「これはこうだ」というのが、すごくはっきりしている。会場の人がマイクを2本用意してくれても、自分はマイクを持たない、と言う。そういうところも絶対だ。有無を言わせない。でも結局のところマイケルの言うことをきくのが一番良いのだ。マイケルは力強く私の目をまっすぐにみて、You are part of the show, so you have to be very funny!と言う。うーん!

それにしてもアヌーナの「ショウ」は完璧だった。ホールの人が言った。「まるで10回くらいリハーサルしたいみたいですね、信じられない」と。マイケルは事前にメールで打ち合わせしていたすべてをひっくり返し、スタッフを慌てさせる。そして「今日のリハがばたばただったのをみたからといって、タイムテーブルを変えるなよ。俺はこういう短い時間で集中してやるのが好きなんだ」と言う。そして、一番良い結果をお客さんに届けるわけだから、ホントにすごいと思う。

またマイケルのすごさは何でも見抜いてしまう観察眼にある。おそらくその場にいるすべての人の人間関係や、いろんな事も、すべてお見通しなんじゃないかと察する。詳しくはここにはかけないが、マイケルは子供たちのワークショップをやってみるとその国の社会の問題が手にとるように分かると言っていた。子供のワークショップは何ケ国でやっているが、ここの子供たちの様子は他の国とまったく違う、と。そして唯一似ている国があるとすればアメリカだ、とも言っていた。そしていろいろ言っていた。具体的にはここには書かないけれど。私は「だからこの国には原発が建っちゃうんだよ」って言ったら、マイケルは「Exactly!」と言った。

そんなわけで新潟公演の翌日、新幹線で一人で上野に戻り、駅の中の高級フレンチランチに行ったら、周りは全員おばちゃんばかり。男性は一人しかいなかった。周りから聞こえてくる会話がいやがおうにも耳に入る。この国は女が社会的責任を取ろうとしていない。だから女は仕事ができる人と出来ない人の差が驚異的に激しい。

などと思っていたら、友達(一児の母)が中野区に陳情書を出し、それが議会を通過、国会まで持っていかれることが決まったというすごいニュースが入ってきた。彼女の陳情は総理大臣らの目にも入る。それは本当にすごい事だと思う。何度も子連れでプレゼンに通い、その努力が実を結んだ。こういう事がやるべきことなのだと思う。こうやって具体的に行動しないと世の中は変わらない。私はよく知りもしないくせに政治や世の中の事を批判したり、自分が結果にコミットできるわけでもないのにネガティブなことを言ったりする人が大嫌いだ。デモに行く人は偉いと思うが、その効果には非常に疑問を持っている(2ケ月前のTBSラジオLifeを参照)。世の中を変えたいのであれば、自分で何が効果的かよく考えて、ちゃんと具体的に行動すべきだ。マイケルみたいに自分の全身全霊をかけて、しかもちゃんと自分の欲しい結果をもたらすように物事とかかわりあう。そして批判も意見も自分ですべて受けとめる勇気を持つ。そういう事だと思う。そんな人に私もなりたい。

マイケルの歌う「Flowers of Maherally」、これやってよーと言ったら「いいな、それ、それ歌いたい!」と一度はセットリストに書いたもののカットされちゃった。