ポール・ブレイディ来日までの道のり5:御大降臨 最初のクアトロでの公演

3からの続き)最初の(正式な)ポールの来日はそんなわけで、大変だったが、ポールにとってはアルタンのキーラン・トゥーリッシュや仲間たちがいて、とっても楽しかったようだ。後日、ポールのホームページには「えっ、こんな写真のせていいの?」みたいな飲み会でのワイルドな写真がたくさん掲載されていた。ポールが撮った写真を見ると、ポールの視点による日本ツアーって感じがみれて、とても面白い。ポールは写真を撮るのが好きだ。ガジェット類も好きみたいでアイルランドでポールの友だちと一緒に飲むと、だいたいはガジェット類の話をしている。ポールの現在のマネージャーのジョンの息子のダラ(この子がめっちゃいい子)がよくポールの相談にのってあげているようだが、そういう話をするときのポールは中坊みたいだ。男の子はいくつになっても変わらないね! そしてFacebookも、イギリスの中年女性がよくFBにハマるみたいに、本当にポールは大好きでよくアップデートしている。ポールのFBは2種類あって、ポール個人の友達用のもの、そしてファン用のFacebookページ。いずれも本人がちゃんと面倒をよく見ている。ファン用のFacebookページは誰でも見れるから、ぜひぜひ参加してみてください。

そうそう、この来日時には、ポールはデジカメが調子が悪いといって、私に修理を頼んでいった。後日、オリンパス(だったかな)のガレージでなおしてもらったらモノクロだったディスプレイが、カラーになって戻ってきたので、ポールはものすごく喜んでいた。今でも、その古いデジカメは今でもポールの息子さんのフィアンセがお古で使っている。すごいね!

そうそう…もう1つ思い出したエピソード。これはポールとは関係ないのだが、アルタン祭りの本公演の前の日にシャロンはアコーディオンを紛失したといって大騒ぎしていた。結局「Diamond Mountain」などをキーを違えて演奏することになった。(そのアコーディオンは後日、シャロンの「ホテルの部屋の中で」発見された)妹でバンドメンバーのメアリーがいつもとキーを違えて演奏するのに、バンジョーのフレットに印をつけるためマニュキアが欲しいと言い出し、司会のピーターさんが「お客さんに聞いてみよう!」と機転をきかしてお客さんからマニュキアをかりてくれたんだった。ホント懐かしい。しかし警察に電話したり、昨晩彼らが豪遊したというバーに電話をかけたり、そりゃ、もう振り回されたものだった。あとで彼女がホテルの部屋に戻り、自分のスーツケースのふたを開けてみたら、そこアコがあった…と皆に言ったときは、本当にひっくり返った…

渋谷公会堂での大きな公演が終わり、ポールにはもう1つ、クアトロのソロ公演が残されていた。シャロンとトゥーリッシュを入れたプログラムを作るということになり、ポールはなんでゲストを入れなくては行けないのかとブツブツ文句を言っていたのだが、いや、あの時だってプランクトンさんで気をきかせてアルタン祭りとのセット券を発売したり、こういったゲストをささないかぎり、ポールの知名度だけじゃ会場は一杯にはならなかったと思うよ。本当にプランクトンさんのそういう努力には頭がさがる。

クアトロの日の公演はものすごかった。ポールの公演は、その後何度も見たが、あの公演は私が見た中でもベスト3に入るんじゃないかな。公演をみたアルタンのマネージャーのトムも「自分は何度もポールのライブをみているが、ここしばらくこれほどまでの公演は無かったと思う」と言っていた。アルタンのマレードは「ポールはライブに自分の200%を出そうとする。そこが本当に素晴らしい」と何度も言っていた。そうなんだよね。ポールの公演はいつ見ても本当にすごい。

現地に見に行ったりしても、サウンドチェックで「おーおーおー」とか歌いだしただけで、いつもいつも自分が記憶していた何倍以上もすごくて、ゾクゾク鳥肌がたってしまう。ソロでもバンドでも何度も観たが、ソロの方が私は圧倒的に好きだ。バンドはいいよ。いいメンバーが揃っている。でも、もうポールはそのままポールで、それ以外の音を聴きたくないんだよね。そのぐらい圧巻だ。「それ以外の音を聴きたくない」ってのは、ポールのバンドのメンバーたちですら実は例のRTEのDVD内でも告白している。ホントにそうだ。ポールのところだけ時間が別に流れているみたいだ。そこに確固たる世界があり、私たちはただただそれに身をまかせるしかない。

もう一人のアイルランドの御大であるヴァンが調子が悪かったり、悪くなかったり、ライブにムラがあるのに比べ、ポールのライヴは、ほんとーーーに間違いがない。完璧にものすごいパワフルな公演を聞かせてくれる。そのスタンダードの高さは、ウチのアーティストで言えばグレン・ティルブルックと同じくらいか、それ以上かな。グレンもステージの前に緊張しすぎて具合が悪くなっちゃうこともあるのだが(そう見えないでしょう?)、ポールのステージにかけるテンションもものすごい。とにかくすべて。自分の200%を出し切るようなものすごいライブなのだわ。

音楽ってそうじゃないとダメだと思う。そのくらい真剣勝負じゃないと。世界のそこここでライブがある。東京なんて1晩にいったいいくつのライブがあるんだろう。でも、ここまで全身全霊をかけた音楽は、ポールしかありえない。200%の音楽。それを聞いたら、もう他の音楽なんて絶対に聞けない。

この前の投稿にも書いたけど、ホントにポールはステージにあがる直前は、楽屋にこもっちゃう。ウルサくしたらどんなに怒られるかと思うと、物音一つたてられない。だいたい普段から、みんな2m以内には近寄らない。スタッフも恵子さんと私としか口をきかない。あ、でも2度目の来日の時は、プランクトンにもN本さんが居て「彼女はいい。とっても優しい」とポールもすごく評価していて、N本さんに帰り際にもらったお土産(とっても素敵な和物の小物入れ)をポールは大事に自分の荷物の中に入れて「ピックを入れるのに使おうかなー」と言っていた。(私があげたプレゼントは郵便送りの段ボールに入れたくせに!!)

それにしても、本人のピリピリ度はすさまじいが、私がポールの公演を見て「良くない」と思ったことは一度もない。そこがほんとにすごいと思う。でも本人がその日の公演が良いと思うか否かは、いろいろあるらしく、海外で、本人が調子悪かったと認識する公演に立会ったことがあるが、これがものすごい恐怖なのだわ。さすがにめげない私も一度泣きそうになった。これについては、また別に書く。

それにしてもクアトロに音楽の神様が降臨した、すごい夜だった。セットは珍しく2セット。ポールは2枚にわけてセットを書き、2枚目はみっともないから同時におかないこと。休憩の時に出すこと!とか私に指示。私も絶対に余計なことは言わない。バカな事いったら、どなられそうだ。ただただ指示に従うだけだ。ポールがくれたセットリストにはライトが明るめとか暗めとか、ギターは2台あるうちのどちらを使うとか、詳細に書かれていた。

開演までの時間を待つ間、途中「空調が思うようにコントロールできない!」とポールが怒るので、トゥーリッシュと私であれやこれやいじったのであるが、それに時間がかかりイラっとしたポールは「早く出て行ってくれ」(笑)と。とにかく万事がそんな調子なのだ。トゥーリッシュと二人ですたこらさっさと楽屋の外へ。トゥーリッシュもああいう時、ホント優しいよなーと思ったのでした。ホントにいい奴だよ、トゥーリッシュ!

とにかくライブが大成功して、ホントにみんなほっとした。そして、その翌日、ポールは帰国するためにのる成田へのバスの中で「自分のホームページに載せるから昨晩のセットリストを後で送ってくれないか」と言う。私は「はい」と答えたものの、「もしかしたら覚えているかも」と、バスの中で昨晩のライブを思い出しながら、すべて曲名を書き出した。自分でもびっくりしたが、とにかくすべてを覚えていた。そのくらいものすごいテンションのライブだったのだ。私もすごいテンションで聞いていたんだな。それを眺めながらポールはニコニコご機嫌良さそうだった。

あぁ、ポール!! ポールは本当に濃い!

と、まぁ、怖いポールの話ばっかり書くけど、涙が出るくらい素敵で優しいポールというのもあるのだ。これについても、また書く(笑)… と、まぁ、ネタがつきない。つまり、そのくらい「濃い」のだ、ポールは。ネタなんて、1年続けられるくらいたくさんある。まぁ、来日まで、あと1ケ月だから、1ケ月したら辞めるけど(笑)

いや〜ホント、もう、普通の公演なんて出来ないよね…