永田純「次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル」

読みました! 永田どんべいさんこと、永田純さんの「次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル」。基本的にアーティスト志望の方や、すでに現役で活躍しているミュージシャンの方が読む本だと思うのですが、なかなかどうして! 私が読んでも非常に参考になったというか、頭がすっきりした、というか。とにかく音楽関係のスタッフとして働いている人、またそういう仕事をしたい人にも読んでもらいたい、すごい1冊です。

どんべいさんについては、音楽業界にいる人ならご存知の方がおおかろう。矢野顕子さん、大貫妙子さんのマネージャーを長く勤められていた方で、私も何度か矢野さんの現場で、ご一緒したことがある。明るくて、ハキハキしていて、適格で…それこそマネージャーとはこうあるべき、という見本のような方だ。ご一緒したことはたった数回であるが、一度お会いしたら、絶対に忘れられないタイプ。そんな敏腕マネージャーさんなのである。

それにしてもこの本は勉強になった。こういう本って今までホントになかったかも。音楽業界って、ある意味、見栄と虚勢の張り合い…というか表側を取り繕って良く見せることも仕事の一部なので、業界の片隅に入ったとしてもなかなか全体像というのが見えないことが多い。レコード会社はレコード会社のアングルでしか物事をみれないし、事務所は事務所なり、ラジオや雑誌ならそのアングルで… というわけだ。私なぞもたった2年半しか居なかったが、レコード会社の物の見方から抜け出すのに大分時間がかかった。だからこういうワイドアングルで「音楽を仕事にする」という世界を見るのは大事だ。もっとも私たちの世代の業界人で言えば、音楽業界で生きて行くなら、一度はメーカー勤務は体験しておいた方がいいというのは確かに存在していた。それが、今はまた時代がまったく違ってきてしまった。それは、ものすごく良いことだと思う。そこが、まさに永田さんの言う「ミュージシャンにとって黄金時代がやってきた」という部分なんだと思う。いや、ホントにいろいろ考えてもいい時代になった。

私がメーカー勤務していたころ(89-91年)は、レコード会社に所属しなければ何も始まらなかった。ラジオ、新聞、雑誌に取り上げてもらえるものもレコード会社中心だった。今考えると、ホント馬鹿な時代だが、それしかリスナーに届ける術がなかったのだ。今だったら、誰でもホームページをつくり、You Tube、Facebookなどで聴く人に音楽を届けることが出来る。私だってインターネットがなかったから、今やっている仕事は本当に不可能だったであろう。

いずれにしても若い皆さんにとっては、キャリアの早い時期で、こういう本をしっかり読んでいることは実は非常に重要だと思う。表紙カバーの裏に印刷された表を自分の今やっていることと見比べ、いったいどういう事なのか検証するのがいい。まぁ、この世界長くいると、やることはおおよそは決まっていて、ついついルーティンになりがちだが、今やっているこの作業はいったいどういう意味があるのか、というのを考えるだけでも相当な頭の整理になるのではないか。

というわけで、私が響いた部分を書き出していこうと思う。将来の自分の励みになるだろう、ということを踏まえて。


(1)プロとアマチュアの違い
仕事をしていく上で、すごく大事なこと。例えばラーメン店を開業した、と。すごく自信のある自慢の味。でも10人中6人のお客さんは「味が薄かったらいいのに」と言う。ここであなたの取る態度は3つ。
A 自分に作れるものは、これだけ。だから同じものを作り続ける。
B 自分が作りたいものは、これだけ。だから同じものを作り続ける。
C 自分が作るべきものは、お客様を満足させるもの。だから期待には応えようと努力する。悔しいし。

商売が繁盛するのは実はCのケース。誘導するつもりもないし、優劣をつけるのも目的ではない。選択肢としてA、Bはあってよい、と永田さん。特にBのケースは才能がある場合、バケる可能性もある。反面Aのケースだと実際に店を続けていくには少し動機が弱いかも、という。

実は音楽業界にも例えば5年もやっていると分かるんだよね。ホントこんなに自分の好きなもんばっかり出してたら、いつまでたっても売れないんだよって(笑)。これは実は痛いほど分かるんだわ。相当バカでもないかぎり(笑)

こういってはなんだが、ある程度の時間の余裕とバジェットがあって、多少いやな事でも我慢しようとか、大人になろうという心がまえがあれば、私だってヒットを出せると思う。出せなくても、まぁ5本に1本くらいは確実に当てる事が出来るだろう。でもそれをやらないのが… なんだろう…私の看板なんだわ。だからいつまでたってもウチはこのサイズだと思う。でも、それでいい。でも、この永田さんの言葉は、ちょっとグッと来た。これ、よく心にきざんでおこう…。


(2)仕事は2種類に分類できて、その中間はない。
A あなたが作る仕事
B 他人が作り、あなたはそこで何らかの役割を担う仕事

「優劣」「上下」ではない。プロデューサータイプか職人タイプか、ということ。実はここをはっきりさせていくことで、仕事上、発生する悩みは大抵解決できてしまうと私も思う。これは、私も胸をはって普段心がけている事の一つだよと言える。なので、すごく響いた。私の場合Aが95%なのであるが、たまにBをする時があり、そしてBの仕事をするあれば、実は一番大事なのはアーティストでもなくお客さんでもなく、この仕事を私に依頼してくれたプロデューサー(もっと言ってしまえば仕事の依頼者/クライアント)だという事を強く認識している必要がある。もちろんクライアントに対してコビを売る必要はなく、私がこの人の立場だったらこの件にはどうやって対処するだろう、ということを常に考えていれば、それが自然と正しい道へ自分を導いてくれるのだ、ということだ。それによって、仕事は驚くほどスムーズに進む。そしてまた再び依頼が来る事が多い。そして幸いにも、だいたい私を雇ってくれる人は、私のことを充分に理解した上で仕事をふってくれる事が多いので(って言うか、そうじゃなきゃ私も受けないわな)、本当にこの点において私は恵まれていると思う。

そして、実は相手(クライアント/その仕事のプロデューサー)も、普段の私のAの部分を見ていてくれているからこそ、認めてくれている、というのもあるのだ。Aの背景があるから、Bにおいても良い仕事も来る…という事ではないだろうか。


(3)なにを投資しているかを意識する
これも…耳がいたい(笑)。

あなたはそのプロジェクトに対して
A お金を投資しているのか。
B お金を投資しないまでも、時間を投資しているのか。
C お金や時間を投資しないまでも、知恵を投資しているのか。

これすっごく大事だと思う。私の場合、お金の投資はわずかなことが多いが、膨大な時間を投資している案件がホントに多い! そしてそれに見合う見返りはあるのかというと、ホントに問題なのだわ。一度、時給計算してみたら、400円くらいになってしまった。典型的なワーキング・プア。これはホントに問題で、今は身体がうごくからいいけど、将来どうしていくべきか。真剣に考えないといけない。

永田さんはこれを明確にすることによって「そのプロジェクトにおける係った人同士の人間関係」がクリアになる。そして「その案件におけるあなたの関わり方」も見えてくる、ということ。かーっっ、ホントにそうだよ!

実はプロジェクトが始まってみると、この点があやふやになることがホントに多い。これは非常に大事なポイント。常日ごろ考えるように習慣づけたい。


(4)ミュージシャンにできないこと
時間的/適正的にむずかしいこと
自分を客観的に見ること
自分を保証すること

これ、すごく大事なことだ。というのは、この「ミュージシャンにできないこと」が、イコール「私の仕事」だからだ。一つ一つの項目が本当に勉強になった。


(5)バンドを目指すみんなに
この項も最高によかった。説明はしないが、たった数ぺージだが、バンドをやっていえる人は、絶対にこれは読んでおいた方がいい。ウチのバンド全員に読ませたい。英訳して渡そうかしら…


それにしても、斜陽とはいえ、まだまだ音楽業界に憧れる若者はたくさんいると思う。私がそんな人たちにいつも言っていることは「仕事するなら音楽関係がいいかもって人は多いけど、死ぬほど音楽の仕事がしたいんです、って人はホントに少ない。だから絶対に勝ち取れる」と。そして今や「勝ち取る」らなくても、自分で音楽の仕事が作れる時代になってきた、という事なのだ。

とか思ってたら、今朝、勝間和代さんがFBでこんなブログを紹介してた。ちょっと前にイチローの小学校のときの作文がすごいとネットで評判になっていたが、それと同じ。夢は見るものじゃなくて具体的な目標。そして具体的に進めていって、絶対にかなえるもん!って事だよね。

まぁ、けっきょくビジネス関係本って、私にとっては普段やっていることを再確認する場なのであるが(笑)いや〜、頭がすっきりしたよ。この本、ホントにおすすめ! ミュージシャン、マネジメントにかかわる物なら、絶対に読んだ方がいい。


それにしても安藤先生の「著作ケンゾウ」シリーズといい、リットーミュージックは本当に良い実践本をたくさん出していると思う。いや〜勉強になる!