都市楽師プロジェクト、鷲野宏さんインタビュー「求道会館編 1」


求道会館は本郷にある東京都指定有形文化財。大変歴史的な建物です。始めてこの場所に鷲野さんの別のコンサートでうかがった時から、ここでヴェーセンを聴いたら、ものすごく素敵だろうなぁ!と思っていたのでした。

今回はその夢がかなって、私もとっても嬉しい。というわけで、鷲野さんにこの建物のお話をうかがいました。

鷲野(以下
W):求道会館はヨーロッパと和の建築デザインの要素がつまった、たいへん貴重な建物です。 現在は東京都指定文化財となっいて、すごく歴史的に重要なんですよ。それも、歴史的狭間にあるような様式の混在があるという意味で、かなり珍しい建物なんです。

野崎(以下MP):大正時代の、この時だから許された、って事ですかね。

註:求道会館はちょっと入るとキリスト教会のような印象を受ける。でも正面にあるのは仏教のお堂。とても不思議な印象を受ける建物だ。 


W:今やったら「奇をてらっている」と言われかねないが、明治以降の欧米を受け入れる過程における日本建築デザインの流れという歴史的文脈の中で生まれたかたちだから意味深いわけです。
(明治維新後の欧化一辺倒から最新のデザインの潮流や和のデザインをとりいれていく世代にあたる)求道会館は、見た目のかたちだけ南仏風であるとかビクトリア王朝風とか、マーケティングに基づいてファッションとして空間をつくっていくやり方とはわけが違う。例えば、今でもアウトレットパークの開発なんかでは南仏風とかスパニッシュコロニアルとかの意匠をふりかけてテーマパーク化するっていうのが流行(ファッション)になっていますが、こうした流れとは求道会館のデザインは一線を画している。

ただ、こんなファッション的建築も、昔から日本人は、そんなのが好きなんです。「看板建築」って呼ばれている建築があるんですけど、後ろは普通にトタン屋根といか、かわら屋根なのに、 道に面してだけ格好をつけて壁面を立ち上げて、その両脇に柱をおいてローマ風に作ったりとか(笑)

そういうのは、渋谷にも残っているし、神田の神保町あたりにもいっぱい残っていますけど。つまり道に面して格好つけてる建物ですよ。

MP
:あぁー!

W
:面しているところだけ。脇から見るとそこだけきれいにデコレーションされた壁が立ち上がっている、という(笑) こんな建物が当たり前のようにあった時代があるんです。そういう看板建築的なデザインとは、商業地の再開発などでもある意味いまだに繰り返しつくられ続けている訳です。
ただ、求道会館については、そんな生半可な選択(デザイン選択の意義深さという意味で)で生まれたデザインではないと思うんです。時代的にはアールヌーボーとか、その前のドイツ・セセッションの時代の息吹を生で見た武田五一という建築家が、そういうのを咀嚼(そしゃく)した上で、日本に最先端の潮流をもたらす中でうみだされた、半ば必然的な空間デザイン・・・そんな歴史的なコンテキストの中で体感すると深く味わえると思います。

彼はアカデミックで、「関西建築界の父」って言われているくらい。京都大学の建築学科とか、京都工芸繊維大学の図案科などを創立した人なんです。建築だけに留まらず図案科を創立するくらいですから、いろいろな分野のデザインをやった人で、家具のデザインなんかもしていた。

MP
:へぇー。

W
:そういう意味で分野横断的で統合的なデザイナーだった人です。そういう知識も技術も熱意も最高峰のデザイナーが、時代精神をベースにいろんな様式を混ぜこぜにしたという点ではホントにすごい建物!(と、とても嬉しそう/笑)

だからこそ、貴重ですから、壊したりとかしちゃいけない(笑)

MP
:もちろんですね!(笑)

W
:だからといって、建物というのはショーケースの中に大切に展示されて残すという在り様ではなく、空間として使われ続けないと(動態保存という)本来ではなくなってしまう。

MP
:そうなんですよね。

W
:で、使われ続ける建物ということで、求道会館の使われ方の話をすると、この建物は仏教の説教のための講堂として作られたので、「人が集まって物を聞く」というために作られた建物なんです。だから檀上から発せられた言葉は堂内全体にはっきりと聞きとれるんですね。

MP
:建物というか音響の不思議な部分ですよね

W
:今はちょっとだけ吸音板をかつての窓にはめてあるんですけど、(人が集まった状態で)まぁ、だいたい残響1秒くらい。どのデジベルでもそれくらいで、(ヴェーセンの音楽には)ちょうどいい感じの残響なのかなと思いますし、コンサートホールとしてかなり価値のあるものだと思うんです。

でも人が集まって物を聞く、という本来の目的に近い形で使われ、保存されていくって大事ですよね。そういう時に集まった人たちが、それを理解した上で、普通のコンサートホールだとは思わずに(笑) そりゃあ普通のコンサートホールだって壊しちゃいけないんですけど(笑)、そういう文化財だと思いながら、音楽を聴きに側も空間自体貴重なものだと思いながらは入っていただきたいと思いますね。・・・(ゲストの皆様)よろしくお願いします。

ここで、来場される方向けに、求道会館の特徴をもうひとつ。多くの仏教の建物と同じく、求道会館も靴を脱いで入らないといけない。つまり、床の養生のためには靴下をはいてこないといけないということになるわけです。 

ヴェーセンのコンサートの情報はこちら。この歴史的建物の中での、歴史的公演をぜひお見逃しなく!(ちなみに私は同じ企画は二度やらないつもりなので、ホントに今回限りですよ〜この公演!)

L@tDBL - VÄSEN - Skraplands Schottis from Precious Productions on Vimeo.