映画「リアリティのダンス」を観ました。なるほどこれは圧巻!



チリ出身の映画監督。巨匠アレハンドロ・ホドロフスキー。85歳。23年ぶりの新作「リアリティのダンス(La danza de la realidad)」。いいタイトルだよね。ロシア系ユダヤ人というバックグラウンドを持つ監督が自分の少年時代を描いた、摩訶不思議ながらも非常にパワフルな映画だった。

前評判をあちこちで見たので、なんとなく内容は知っていた。85歳の監督が自分の子供のころを回想していく、そういう内容。また先週、久々に飲んだ女友達から「これは素晴らしい作品」と強力プッシュされたことによって、これは絶対に見に行かねば、と思った。配給のアップリンクの浅井社長による日記も興味深かった。でも実際私がこの映画を見たのは新宿の映画館だったっけどね。

監督によると過去は変えられる、と。主観的に観ているから自分で書き換えることが出来る、と。確かに自分は自分のヴァージョンで過去を記憶しているわけで、もしかしたらそれは自分の都合のよいように覚えているだけなのかもしれない。

で、自分の子供時代の再構築、というわけなんですよ。自分の住んでいた実際の町でロケをし、自分の父親役を自分の長男に演じさせ… そして、この父親がすごいんですよ。とにかくひどい父親で暴力的で息子が気を失うまで殴ったり、麻酔なしで歯の治療をさせたり、妻に対してもひどい態度を取る。とにかくひどい暴力/瞬間湯沸かし器父親。ウクライナからの移民で「ウクライナ商会」という小売店を営む熱心な共産党員でもあり、店の奥にはスターリンの写真が飾ってある。で、話が進むにつれ、ついに彼は当時チリで独裁政権をひいていたイバニェス大統領暗殺のため家族を捨て放浪の旅に出る。ひどい目にあいながら、大統領は暗殺できず、ボロボロになりながら最終的に家族のもとに戻ってくる。

こんなにひどいお父さんなのに監督のインタビューでは、映画内ではお父さんを人間的に書いた、と言っているくらいだから、実際はもっと常軌を逸していたに違いない。想像するのも怖いわ…

お母さんの方は、実際の監督のお母さんはオペラ歌手になりたかったもののなれなくてお店の売り子をしていた、と。胸がすごく大きかったそうで、そういう女優さんを選んだ荘だ。しかも彼女のセリフはそんなわけですべてオペラ風の歌唱になっているわけ。しかも自分の息子の中に死んだ自分の父親を投影していて金髪のかつらをかぶせて「お父さま」と呼ぶ。それでも母親として、妻としての愛情は豊かな人で暗闇を怖がる息子を救ったり、自分の夫の病気をなおしたり…

で、まぁ、この映画を作って私は生まれ変わった、と監督は言うわけなんですが。うーん、なるほどねぇ!! 確かに私も若い頃の未熟な自分に対して「心配しなくても大丈夫だよ」と言ってあげたくなることはあるのだが… そういう監督の話を知らないと、ちょっと分かりにくいかも。でもとにかくパワフルですよ。ただ分かりにくいといっても、哲学的かというとそんな堅苦しくもない。分からないところは返ってユーモアも交えて笑えるシーンであったりもする。例えば少年たちが海でかくれて悪いことをするシーン、なぜか家の廊下にトイレがあって、そのトイレに父親が不必要なものを投げ捨てて行く事とか… いろいろ何のメタファーかじっくり考えたくなるシーンもたくさんあったわけで… 

でもって映画を通して言えるのは色彩がものすごく印象的なんだよね。監督のインタビューによると、これは撮影後にデジタル技術で調整しているそうだ。なるほどねぇ。あと音楽も素敵なんだけど、こちらは映画の中で大統領暗殺をこころみつつも失敗し自殺するアナーキストを演じる末の息子さんが担当している。

しかし監督もヘヴィだよね。結局のところDUNEを完成できなかったり、こんなにも超巨匠でフランスをベースにしているというのに制作の資金ぐりには苦労しているのが辛い。映画の制作費はケタが違うからなぁ。巨匠といえでも表現活動はやっぱりビジネスとの戦いなのだ。映画によせられた夢枕獏さんのコメントじゃないけど、誰かホドロフスキーに100億円出してやってくれ!!!(笑) そんな感じ。こんな巨匠が100億円なくて苦労するなら、私が100万円なくてピーピー言っててもしょうがない、って事になってしまうではないか?!(爆)

ところでこっちは世界一有名な未完の映画DUNEのドキュメンタリー。音楽はプログレでマグマがやる予定だったんだよね。「ハマタイ!」



PS
パンフレットに載っていた監督のオリジナルスケッチ→奥様のデザイン画→実際の写真。なかなか興味深い。