映画「クイーン・オブ・ベルサイユ〜大富豪の華麗なる転落」を見ました。面白かった!!!


映画「クイーン・オブ・ベルサイユ〜大富豪の華麗なる転落」を見ました。いやぁ〜面白かった。この映画、まったくノーマークだったけど見てよかった。友達が鑑賞券が余っているということで、チケットをプレゼントしてくれたのだ。良いドキュメンタリーは本当にすばらしい! そして、ホントにいろいろ考えた。この映画、すごく深いと思う。

この映画を観ると… お金とか消費とかがめちゃくちゃむなしく感じられる。実は映画を見終わったあと、次の打ち合わせまで時間があったので、本屋に行ったのだけど、そこで並べられてる本の山に、そして特に自己啓発本の踊るタイトルたちに、正直ウンザリしてしまった。なんか、アイルランドのやうな田舎でボーーっとシンプルな自給自足暮らしがしたい、と思った…って一瞬ですけどね(笑)

アメリカ、フロリダ州で一代で財をなした大富豪、デヴィッド・シーガルと妻のジャッキー。ジャッキーは30歳以上も年下で、元ミス・フロリダ。叶姉妹みたいなすごいボディをしている。(明らかに豊胸手術をしている)

デヴィッドはタイムシェアというリゾートビジネスで大変な富豪となり、ブッシュを大統領にしたのは彼の力とも言われている。(あのブッシュ/ゴアの選挙の時のフロリダの悲劇を覚えている人も多いと思う)いわゆるサブプライム・ローンというやつだ。例えば年収400万くらいの家に5000万貸し付けるという…どう考えてもおかしい話を、正直あまり頭のよくないアメリカ人たちに押し付け、そうやって儲けたお金で自分は大変な豪邸を建て、家族は贅沢三昧の生活を送っていたのだけど… 

さらにベルサイユ宮殿を見て感動した二人は、ホワイトハウスの2倍といわれる総工費100億円のすごい豪邸をさらに建築する計画をたてる。もう大変な豪邸だ。

ところが、そこへリーマンショーーーーーック! どん底に落ちる二人。1800億円の試算をもつ身から、一気に1200億円の借金を抱える身に。銀行は資産を差し押さえ、安く物件を売却しろとプレッシャーをかけてくる。始めて自家用機ではない飛行機にのり「なんで他に人がいっぱいいるの?」と驚く子供たち。

でも振りかえってみれば… この夫婦二人とも貧しく大変な子供時代を送ってきたし、猛烈に努力し勉強し働いても来た。

可哀想だがデイヴィッドに関して言えば、お金がもうすべて。お金がないと幸せそうじゃない人ってのはいるけど……ホントに可哀想だと思う。私も事業がきつくなり仕事の通帳の残高が減ってくると…とても不安になり、それは実際日々の生活にも及んでくる。私の規模ですらそうなんだから、この規模で、この従業員数で、イライラしないわけがない。

そんなデヴィッドをささえようと手作りのディナーを用意したりする健気なジャッキー。そのジャッキーは、しかし買い物が辞められないでいる。電気をマメに消せ、と怒るデイヴィッド。19人もいたメイドを3人残して全員クビにする。大きな屋敷で犬もたくさんいるのにメイドが足りないから部屋は散らかり放題。カーペットの上には犬の糞がゴロゴロ。(なぜトイレの躾をさせないのだろうか)自分でかたづけることもできないらしく、とにかく部屋は散らかり放題。ペットの餌を買うことができなくてトカゲを死なせてしまう娘に怒るジャッキー。

もう妻の事は愛していない、とデヴィッドはカメラの前で平気で口にする。子供もナニーたちを雇えなかったら7人も産まなかった、とジャッキーは赤裸々に語る。そしてマクドナルドのドライヴスルーに運転手付きリムジンで乗り付ける。なんとか若さを保とうとエステでケミカルピーリングみたいなのをやる。でも夫はもうキスもしてくれない。カメラに向って「政府の救済金は私たちみたいな“一般人”を救うために使われるべきだ」とジャッキーが発言した時、アメリカの映画館が失笑の嵐だったという。

が、この夫婦。なんだか憎めないのだ。彼女はピュアでなんとかこの状態中、夫を支えようと努力している。デヴィッドは孤独だ。あんなに可愛い子供たちがたくさんいるというのに、それがまったく彼の幸せにつながっていない。

子供たちは結構シビアで上の女の子二人、特に、ジャッキーの兄の子供だかでほとんど捨てられていた状態なのをジャッキーが引き取ったという子は、ものすごくシビアな視点でこの夫婦を見つめている。が、彼女に何が分るというのか。おそらくジャッキーの優しさや、デイヴィッドの孤独を、彼女はまったく理解していない。が、そんな夫婦を、この以上な状況を斜め上からながめている。そして大人びた発言をしてみせる。

そもそもこの映画。最初はこの大富豪夫婦のサクセスストーリーを記録するつもりで、カメラが彼らの自宅に入ったらしい。雑誌の撮影でジャッキーに知り合った監督は、ジャッキーの家に招かれ、そこに滞在することを許されたのだという。彼らはあらゆる取材に協力してくれていた。そして、このリーマンショックがあった後も、彼らは監督に彼らのこの状況を撮影することを許した… といういきさつなのだそうだ。そんなわけで、特にオチがあるわけではないけれど、非常に深い、面白いドキュメンタリーが出来上がったわけだ。

しかし…私もお金のある人って何人か知らないわけじゃないけど、お金持ちや成功者が幸せになれるとは絶対に限らないというのは、なんかもうかなり若い頃に学んだ気がする。

例えば今まで仕事をした中ではR.E.M.のピーター・バックなんてすごいお金持ちだと思う。スコットだってビルだってそうだ。あんなに何年もR.E.Mをやっているんだもの、お金持ちでないはずがない。ピーターに関しては印税収入もあるから、もう桁違いであることは間違いない。でも彼らはちゃんと私が用意したホテルに文句も言わず泊まり、観光だといえば普通に電車に乗り、本当にプロフェッショナルにツアーをこなしてくれた。彼らに近い友人から「ピーターの双子の子たちに会ったことあるか?」と聞かれ、ない、と言うと「あの子たちを見ているとピーターがどんなにしっかりした人か分る」とその人は話してくれた。読書好きの、ほんとに落ち着いた女の子たちなのだそうだ。ロックンロールのマッドな世界で、そんな父親になることがどんなに大変なことか。

ポールの家だってそうだ。メアリーの家だって。みんなすごいお金持ちなんだけど浮ついたところがまったくない。そして絶対にお金にふりまわせれたりしていない。もっと言うとお金に、自分の人生のコントロールを手渡していない。これはものすごく大事なことだ。

まぁ、それはさておき… この映画には後日談がある。この映画が出来たのは2年前とかで、時間が流れた。会場で購入したパンフレットより:この映画はプライバシーの侵害だ、この映画をみるとウエストゲート社が倒産寸前のように見えるから営業妨害だ、とデイヴィッドが監督を訴えた、というもの。もっとも彼は最終的に敗訴。この映画はサンダンスや多くの映画祭で賞を総なめし、大変評価された。

そして… なんとウエストゲイト社は現在、不死鳥のように復活をはじめているという。ついに2013年、シーゲルはベルサイユの売却を辞めて建築を再開。完成は2015年だというではないか。すごすぎる…なんていうタフさだろう。2014年、デイヴィッドによれば会社の財務状況は創業以来の44年間で、今が一番最高だという。

一瞬でもデヴィッドに同情した私が馬鹿だった。100万円でもいいから、くれませんか? 良いツアー作ってみせますよ(爆)



町山解説も秀逸なので是非。