「オリーヴ・キタリッジの生活」を読みました

すごーく前に買って、全然読めてなかった本。積ん読の山から、またもや1冊消化。これはめちゃくちゃ面白かった。「オリーヴ・キタリッジの生活」誰かに薦められて買ったんだっけ、これ? 

このオリーヴが…、まぁ、嫌味なおばさんなのだ。こんな人が周りにいたら、ホントいやだろう。私だったら、こういう人が近くに来たら無視だ、無視。なるべく係らなくて済むように距離を置くだろう。とにかく暗くて、ヒステリックで、元数学教師という職業柄か高圧的に物をいい、身体がでかくて太っており、自分が間違っているなんて夢にも思っていない、そんなおばさん。旦那に対してもつらくあたり、なんだかんだで愛しているんだかどうなのか分からない感じ。それでも、なんとなくお互いパートナーに愛着をいだきながらも、絶対に安らかで穏やかな愛情などそこには存在しない。オリーヴ以外に出てくる周辺の人間たちも、みんな誰にも同情も感情移入もあまり出来るような人物はいない。 人生に妥協しながら「こんなはずじゃなかった」と生きる人たち。

でも彼らは自分の幸せに気づいてないのかもしれないよ、と思う。歳を取ったら、周りに感謝しながら生きて行かないと、50一歩手前の自分ですら今すでに思っているのだが、この本の登場人物たちにおいては、そんな気配はまるでない。周りが自分の思い通りにならないとイラつき、オリーヴなどはその最たる例で、溺愛していた息子にも呆れられ見捨てられる。そう、人生なんて結婚しても子供が生まれても、素敵なゴールなんて日々努力しないと作って行けない。オリーヴは息子の強い嫁どもとも全く上手くいかない。…とか書くとやたら劇的な感じがするのだが、いやはや作家のペンの力。これが、めちゃくちゃ静かな物語なのだ。だから読んでいて辛くはない。必要以上に感情移入する必要もなし。が、それが余計にオリーヴの激しい気性を強調している。

数学教師を退職したオリーヴが主役なのだが、13コある短編で纏められていて、いくつかにおていはオリーヴは主役ではなく、ちらっと片隅に登場する程度だったりもする。それでもやはりこのオリーヴの印象が残るのは、やはりこのデブで大柄のおばさんが、いくら嫌味であっても圧倒的な存在感でいるからだ。あぁはなりたくない、と思わせてくれる圧倒的な存在。とにかく良い小説において、どれにでもあるように人生の難しさが静かに表現されている。そう自分だって、この人たちみたいな道を行くかもしれないのだ。オリーヴの言葉「ひとつ気がかりなのは、こんな運動をしていたら、長生きしてしまうかもしれないということだ。なるべく早く、と思っている。寿命は短いほうがよい。日に何度かは、そんなことを考える」…とか。確かに生きていくのはホントに辛い。でも最後の章でなんとなくあったかい展開もある。「人間、いつだって一人だわよ。一人で生まれ、一人で死ぬ」またもやオリーヴの言葉だ。

また10年後くらいにもう一度読みたくなるかも。っていうか早く仕事引退して毎日本ばかり読んで暮らしたいなぁ、と、私などは、また思うのであった…って、まぁ、いっつも言ってるだけで、そんな暮らしはまだ無理だけどね。13編の短編のうちおすすめは「薬局」「ピアノ弾き」「セキュリティ」「川」 でもちゃんと順番に頭から読み飛ばさずに読むことが大事。(巻末の翻訳者の言葉にもあるとおり)

有名な本なので読書メーターをチェックしてみた。しかしこういう場って必ず翻訳に嫌味を言ったり難癖つける人がいるのよね… 私はすごくいいと思ったけど。