ウィリアム・トレヴァー「聖母の贈り物」を読みました。これは最高!

いやーーーーー いやー いやーーー 来た。これは来た。最近読んだものの中でベストだったと思う。ウィリアム・トレヴァー。コーク出身でイングランド在住の作家さん。この前に読んだ「密会」も良かったけど、あっちより、こっちの方が断然良い。

あっちは新潮社クレストで装丁とアイルランドだって事に惹かれて買ったんだけど、こっちは装丁ちょっとダサめだけど、内容は…めっちゃいい! しかし税抜2,400円。税金入ってたら2,500円Overの本。良く買ったよなぁ、過去の自分の判断に拍手。これも実は積ん読山からの発掘です。

またもや短編集です。一作目の「トリッジ」からして最高にフルっている。みんなの牧歌的な思い出の象徴だったトリッジに一杯食わされるろくでもないボーディングスクールの気取った連中。なんかここで言うトリッジって、実は私の中ではエド・シーハンのイメージ。赤毛で緑の目でアイリッシュっぽくって目が離れててニブそうで……でも実態はめっちゃくちゃキレる……という。(ごめんね、エドくん、悪者にしちゃって…)でもってボーディングスクールのおぼっちゃま連中にガツーーンと一発くらわす様は痛快でもある。いいぞ、エドくん!…じゃなかった、トリッジ!!家族の前でケチョンケチョンにされた彼らには立ち直る術もないのだった。

そして「エルサレムに死す」 家族の話だ。でもそれぞれ…バランスがとても悪い。こういうバランスの悪い人間関係は良くある。家族同士、夫婦同士、親子同士、友達同士。末っ子の彼は素直で信心深くいい子だ。エルサレムに来たはいいが、そこは観光地のノリばかりで、かえって自分の家の田舎道の方が神の姿を思い描けたのに、と不満だ。彼は完全にマザコンで、そのお母さんはとても強く実際息子を離しはしない。そうして息子が旅立った日に亡くなるという嫌味もやってのける。どちらかというと母親が浪費家だ非難する長男の方に私は同情してしまった。

そして圧巻は「マチルダのイングランド」3部作/トリロジーになっていて、長編なみの読み応え。古い建物とそれに心を寄せる女の子の一生を描く。戦争。亡くなって帰ってこない人たち。神様。信仰。うーん、これはホントにすごい。この女の子には正直同情はまったくできない。そして「聖母の贈り物」なども…これもなんといって良い話なのやら。最後、親元へと帰っていく主人公が…とにかく重い。

こんな風に普通の人たちは…なんというか、そのままなのだ。ここには人生を自分で切り開いている人など誰も存在しない。誰もが運命に逆らえず…というか逆らわず、与えられた場所で与えられた啓示に導かれ生きていく。あるいは何かに頑固に執着し生きて行く。いや、それも一方では幸せなのかもしれない。が… なんというか…あまりにも暗いんだよ、もう! でも普通の人の人生はこんなものなのかもしれない。私だってそうかもしれない。っていうか、外から見たら、誰だって、ろくなもんじゃないのだ。そういう事を言っているのかもしれない、この本は。なんか身も蓋もないけど…

翻訳の栩木伸明先生にも乾杯! これだけこの本にのめり込めたのは、やっぱり訳が素晴らしいからだと思う。しかしウイリアム・トレヴァー良かったわー