高野秀行「幻獣ムベンベを追え」を読みました。ムベンベには会えなくとも、探検家は真理に近づく

早稲田探検部マイ・ブームが続いている。今度はコンゴの(ちっちゃい方のコンゴです)幻の怪獣モケーレ・ムベンベを追う物語。kindleで買いました。

ムベンベって、こんなやつ(左の絵参照)。一応、日本語Wikiまであって、ちゃんともっともらしい説明が続くが……正直、いるわけないじゃんと思って読むと、大真面目に書かれたwikiの文章も単にバカにしたような風に読めなくもない。うーん、まぁ、いいや、興味ある人はリンク先を読んでみて。

が、こういうのを真剣に捕らえ、ホントに探しにいっちゃう人たちがいるのだ。それが探検家だ。早稲田大学探検部、おそるべし。同じ早稲田探検部出身の角幡唯介さんもすごいけど、まったくもって、すごい連中だ。

っていうか、学生にしてすでに1つの事業家だよね。自分のやりたいことを企画書にし、資金を集め、タイアップを決め、チームを組んで実行する。すごいよ、これ。みんな学生さんでしょ? 日大のTOP 40愛好会でノホホンとしてた、オレとはえらい違いだ。誰もが早稲田の探検部に入れば、もうみんな事業主になれるんじゃないか? もう就職なんてしなくっていいんじゃないのか?とまで思ってしまう。日大には探検部はあったんだろうか… なんというか探検部という事自体が、とっても早稲田的だ。

それにしてもすごいよ。ノンフィクション作家の高野秀行さんが学生時代に書いたもの…すごいよね。学生が書いたものなのに、確かにもうすでに大作家の片鱗が!!! 圧倒的に読ませる。めちゃくちゃ面白い。なんか妙に芝居がかった文章。大真面目に書かないと…揺らいでしまうのかもしれない。ムベンベなんかいない、って(笑) でもって最後にプロになってから書き足したと思われる後書きとかが、さらに泣かせる。くーーーっっ!!

文章が面白いからとにかく読み進めるんだけど… それにしてもバカなんですよ…。っていうか、モケーレ・ムベンベ…いないでしょ、ふつー。そして、そんな僻地に行かないでしょ、ふつー。死ぬような思いしてまで…あまりにも馬鹿だ。馬鹿すぎる(褒めてます)。探検家ってミュージシャンよりたちが悪いと思う。特にこういう「珍獣探し」みたいな探検家。なんかのバカなテレビのバラエティみたい。そういや高野さんは、子供のころ川口浩探検隊を本気で信じていたそうなのだから相当重症だ… 

コンゴのすごすぎる文化、村の掟やら何やら日本の価値観なんて吹っ飛ぶ。村民との駆け引きもすさまじく、何より自然もすさまじく…隊員たちの葛藤。病気で倒れる者 あぁ、もう何がなんだか? なんでこんなことやってんだか? いちいちそういうツッコミを入れたくなる。まったく理解できない、この人たち。まったく理解できないよ。

そして映像までYou Tubeで、発見しちゃったよ…おいおい。で、この映像にもオチが入っているので、書いちゃいますが、ムベンベには出会えてません、この人たち。


でもね、探検の醍醐味って、そこじゃない。それは分らない人には分らない。分らないんだったら、もういいんです。笑いたい人は笑いなさい。

高野さんの後書きより…「ある1つの場には、世界の他のどこにも起こらない、そこだけにしかない過去、現在、未来があるはずだ。それを大切にしなければいけない」

そうなんです!!!! なんて正しい!! なんて正しいんだ!!!! そうやって探検をすることで、探検家は世界の真理に近づくのだ。ムベンベには出会えなくても!!! それは角幡唯介さんの「雪男」本にも通じる。そしてその真理は、このヘナチョコ日本にも、世界中どこにでも通用する絶対的な真理に間違いないのだ。ムベンベ探しにいって発見しちゃったよ、世界の真理を!

これはパワフルな本だ。高野さんの他の作品はこれから読むので、高野さんをこれ1册で評価するのは早いのかもしれないが、これは大変な名著であるし、ホントに探検ってすごいと思う。まだまだムベンベ探しの旅は終わらない。というか始ったばかりだ。

世間ではケルトとか北欧とかがブームらしいが、私は今や次に来るのは「辺境」や「極地」だと思う。もう生きるか死ぬかのサバイバルの世界。原始的な、あまりに原始的な世界。それこそが、今の日本に必要なものだ。なぜ辺境が私たちを呼ぶのか? それは、そこが究極の場所だからだ。生きるか、死ぬかの究極の場所だからだ。もっと言えばゴリラ喰うのか、喰わんのか、ウンコするのか、しないのか……そういう究極の場所だからだ。

もう悠長に外国の文化とか、あったかい暖房のきいた部屋で、香りの良い紅茶を飲みながら勉強している場合じゃないよ。上品に構えてなんかいられないんだよ! 究極の場所に追い込まれて、人は考えるのだ。なぜ自分は生きてるんだろう、なんで人間は生きていかねばならないんだろう、って。

だいたいこのマッドな日本は、今や極地に劣らないくらい過酷な場所になってしまった。やることなすこと、すべてダメダメで問題山積。1つ1つ真面目に対処してこなかったツケが大変な問題を生み、もう未来なんかない。原発やら安保法制やら沖縄やら、なくなった年金やら…このマッドな日本社会は、いまや極地以上に、圧倒的な自然以上にひどい場所になってしまったのかもしれない。それに、今でこそ外は寒くとも、一応は屋根の下で優雅に私もこのブログを書いているが、いつだって大きな地震が起きて、それが崩潰するかもしれない。いや、私だって、あなただっていつだって貧困のスパイラルに陥り、二度と抜け出せなくなるかもしれない。東京に住んでたってギリギリなんだ。みんなギリギリなんだよ。

そんな時、ゴリラを解体したり、ウンコしたり、そういうことが大事なんじゃないの? こういった辺境こそが、今この日本で必要とされている本当に生きるための哲学を一番提供してくれるのだ。

これは絶対に来る!! オレのケルト・ブームは20年前に終わったし、北欧ブームも10年前に終わった。私が断言しておきましょう。次に来るのは「辺境」「極地」だって。

さーて、旅にでも出るか(爆) 

高野さん、日本史の先生との対談本も好評のようだ。思わずポチった…やばい。辺境「マイ」ブームは続く。

とか、書いてたら、なんとこんな投稿を高野さんのブログに発見! にゃんと! あの川内有緒ったら「高野はぐれノンフィクション軍団」のメンバーだったのか!! すっげー っていうか、世間は狭いな…狭すぎるよ、有緒ーー! 高野さん,紹介してーーっっ。オレも軍団に入りたい。ノンフィクション書けないけど!(爆)



PS
今朝起きたら、こんな映像があがってた。御大がチャリティの為に出したシングル、ボブ・ディランの「Forever Young」のカバー。そうね、いつまでも若くありたい。馬鹿でありたい。あ、違うか(笑)