「極北の大地の深い夏 イヌイットのことづて」を読みました


元TV局勤めの人が書いた本だそうだ。現在彼女は80歳らしく、ググったのだが、何も出てこなかった。これ1冊しか出していないのだろう、本の最後に書かれたバイオグラフィによるとTV東京在職中にカナダのイヌイットのドキュメンタリーを制作し、その後退職したあとも彼の地に惹かれ、再び訪ねた。その時に接したイヌイットの文化を紹介している。

これは私が目指してるグリーンランドではなくて、カナダのイヌイットの話で、政府の保障問題や自治区の問題が佳境だった時代の話。そして現在(といっても10年前だが)の話。(イヌイットを取り巻く環境は、しかし北極の氷みたいにどんどん変化していくので、10年でも大いのであるが。

まず、この本、すごく装丁が綺麗。そこここにイヌイットアートがちりばめられている(写真参照)。本の内部はモノクロなので、ちょっともったいないのだが、これは予算の問題もあったのだろうから仕方がないだろう。

文字が少ないからあっという間に読めてしまった。読みやすい本だ。文章は素人ながら、テンポが良く飽きさせない。

しかし正直、読み始めたときはあまり面白いとも思えなかった。すでにイヌイットの価値観や、自然と共存していく生き方は他の本で堪能済みだ。そもそも彼女の話の内容自体、それ以上でも以下でもなく、TV局の取材だから冒険と違ってパニック的な側面や、謎解きみたいな側面もない。イヌイットが人間としてのステージが高いのは充分分かるんだけど、私が興味があるのは、果たしてそんな人々が、この貨幣経済や、さらに急速に押し寄せるインターネットやら何やらの現代文明とどう共存していくか、ということなのよね。だからその部分が書かれた最後の方が、興味を持って読めた。

ホントにイヌイットの人たちは、私たちと違って人間としてのステージが高い。角幡さんが時々言っている「オレなんかイヌイットの人たちから見れば、使えない奴って、思われてるんでしょうね」っていうのは、きっとホントだと思う。そして、私も思う。こうやってブログを荒川土手で書いていても思う。大自然の中に自分をほおりなげて、生き残るだけ!っていう勝負に出たら,どんな素敵だろう、って。

イヌイットの世界がいいな、素敵だなと思うことは簡単だ。でも、私はニューエイジの人ではないので(笑)そんな夢みたいなことはボケボケ考えない。考えるのは、都会で働く自分のことだ。彼らの生き方は分かった。では、それを知った自分がどう生きていけばいいのだろうか、と。

そんな風に考えるにつけ、私が感じるのは、あの地に住んだときの圧倒的な絶望だ。自分の力ではどうにもならない、という絶望。そもそも人間が来てはいけないエリア。草木1本はえやしない。そんな圧倒的な絶望の中で、自分の力で何かの努力を成し遂げたという経験は、彼らのDNAの中にない。もちろん狩りが上手くなったり、犬ぞりの要領をつかんだりとか、そういう事はあるだろう。が、それでも、あの圧倒的な自然と氷の中ではまったくかなわない。そんな絶望だ。

でもって今、私はそれに対する答えを自分の中で出しつつある。そんなこともまた今度書いていきたいと思う。

この本はカナダでのケースで、グリーンランドのケースと違う部分もたくさんあるが、それでも、良い資料になるなと思った。さて、今日も頑張りまーす。

今夜からメロディック・メタルのバンドさんたちのお手伝いで忙しくなります。そのあとはすぐにティモが来日して東京マラソンに参加します。こちらもレポート、お楽しみに!