廣川まさき「私の名はナルヴァルック」を読みました


極地、北極、探検ネタの本で積ん読になってる中から1冊。昨日の夜、やっと読み終わった。で、内容なんですが、これは非常に良かった!

北極本としてはもとより、女の人が書いた探検系の本の中で一番良かったかもしれない。いいわ、これ、かっこいい。そして彼女の視線も優しく、厳しく、冷静であり、でも感動的で、すごく良かった。これは女性にしか書けない本だ。素晴らしい。

文章は分かりやすいし、水爆実検の導入部からグイグイひっぱられる。そして何といっても圧巻はエスキモーの生活がヴィヴィットに描かれている部分だ。いいなぁ,言葉が通じて…って思いながら読みつつ、しばらく読んでて分かった! そうか、北米の北極圏なら英語だから通じるんだ!!! 彼女も北米イヌイットの言葉は片言しか分からないらしい。英語が通じる… いいなぁ!(笑)

でも本当に鯨をハンティングする現場にたちあったり、肉を女達といっしょにおろすシーンなどは本当にすごい。そして怠惰な若者たちに対するシビアな視線なども。私がグリーンランドに対して思った複雑な気持ちが、彼女の本にも非常によくあらわれている。「絶望感」「諦め感」でもその中から、なんとか希望を見いだし、北極圏の未来を考えていかないといけない。

私はといえば、グリーンランドに10日以上いたが、正直本物の(と言うとナヌークたちは怒るかもしれないけど)イヌイットたちとの交流はほとんどなかった。彼らはデンマーク語は話すが、英語はまったく通じない。

シシミウトのお土産物屋(工芸マーケットみたいな場所)をのぞいたら、いかにもイヌイットという様子のおじちゃんたちが一杯飲みながらお土産物を販売していたことがあったのだ。が、お客は私しかおらず、私はちょっと恐くなってすぐ出て来てしまった。そもそも高くて手作り工芸品は私には買えない。そして彼らは掃除をするという概念がないのか、とにかく店舗の中はちらかりまくって埃だらけで、まったくもって酷い状態だった。

あとはスーパーの脇に設置された「肉市場」みたいな場所でもイヌイットに接触するチャンスがあった。…とか書くと、なんか興味本位で近づいているような表現でイヤになるが、実際そういうノリだったのだから仕方がない。彼らは白人たちや白人の混血たちとは挙動がまるで違うのですぐわかる。そこでは血だらけになった、おそらくアザラシや麝香牛やセイウチみたいなものが売られており、そこにいたイヌイット(らしき)おっちゃんたちも私が入って行くと「いかにも観光客」という私をジロリと見た。でもそのうちの1人は観光客に慣れているのか、私に動物の鳴き真似をしてみせてくれた。その肉がなんの肉か言ってくれていただのだと思うのだが、果たしてそれがなんの動物だったかは分からない。ごめん、生肉買っても…料理できないんだよ。

どちらも首都ヌークではなく第2の都市シシミウトでの話だ。シシミウトでやっと入植者/イヌイット、半分半分と言われている。ヌークはあきらかに入植者90%の町だ。

まったくもって英語が通じないところは、私はフランスでもダメダメの使えない人間なのだ… あぁ,人間としてのステージの低さを思い知らされる。

グリーンランド。また行くチャンスがあるんだろうか。とにかく高いからなぁ… でも今度行くことがあれば、この彼女のように絶対にイヌイットの文化があるところに行きたい。となると、グリーンランドではなく北米も視野にいれないといけないかも。そしたらとりあえず英語は通じるなぁ…とぼんやり予定も予算もないのに考えている。

彼女が開高健賞を取ったという、前作も読んでみるか。

PS
しかし何度も思うのだけど… こういうところに住むことになったら、すべての思考を止めて、すべての情報も止めて、ただひたすらに目の前のことに向きあう性格ならないと難しいのではないか…。そういった中に置かれたら、果たして自分は幸せになれるんだろうか。たぶん無理である。そうなると最低に思える政治のもと、この人口混み混み,イベント過多の東京に住むしかないのか…と、またグルグル思考は回る。