今さらですが…「この世界の片隅に」を観ました




いや〜、すごい映画でした。山口洋先輩も見終わった後、何も言いたくない、って日記に書いてたけど、ホントにそうだった。やっぱり山口先輩がいいと言ったものは、チェックしておく必要があるなぁ。とっとと観に行けば良かった。

でも、言い訳させてくれ。観なきゃいけないのは分かっていたんだけど、一番話題になってた頃は私はめっちゃ忙しかったし(20周年ライヴからICE STATIONにかけて、ほとんど寝る時間もなかった)、いや、それは言い訳だな。「猿の惑星」だったら何を置いても観に行ってたのだろうから… 

そもそも普段から、私はあまりアニメを観ることが得意じゃない。宮崎アニメとかほとんど観てないし、外国人の友人にうながされてやっと観るわけなのだが、それでもアニメは子供がみるもの…という偏見が自分にあるんだと思う。

加えてボーーッとした人(特に女性)は基本的に苦手である。自分で人生切り開いてない、努力してない人をみると、すごくイライラする。若い時はそれがホントにひどかった。今は歳とってだいぶ丸くなったと(笑)思いたいけど、まぁ、そんな風に私はイヤな奴なんですよ。

そしていわゆる「癒し系」みたいなのがホントに嫌いなのだ。「ケルトの癒し音楽」とか聞くともうそれだけで鳥肌がたっちゃう。本当のアイルランドというのは、もっとたくましく正義感に溢れ、力強さにうらうちされた実態があるものなのだよ。ま、これについてはこのくらいにしておくけど… だからこういうホンワリした絵も本来は好きではない。

あとさらにいえば、戦争という大事に対する大衆の無力感や愚かさ(と言ってしまっていいんだろうか)を、観せられるのは単にイライラするだけだと思っていた。私が好きなのは個人が世界を変えるというストーリーだ。変えられなくても、それに向けて努力する世界だ。世界に流される個人は好きではない。角幡唯介さんがいつだったか紹介していた「小さいおうち」のことを思い出す。大きな社会では大変な一線を越えてしまっているのに、多くの人は日々の雑事に追われ、そんなことに気づきもせずに毎日を送っている。自分の生活にかかわりある何かが起こって(たとえば家に赤紙が届いて、たとえば空襲が始まって)はじめて問題を認識する…など。

だからこの映画観てもイライラするだけじゃないかな、と思っていた。「あまちゃん」はそもそも1回しか観てないし、見ても楽しくなかった。朝ドラのテンポの独特さに付いていけなかった。芸能界で理不尽にもつらい目にあっている能年さんのことは可哀想だなと思っていたけど、それ以上の感情はない。だから彼女がこの映画の声をやっている聞いても,何も思うことはなかった。

しかしそんな私も「夕凪の街、桜の国」はかろうじて友人から借りて読んでおり、それにはとても感銘を受けた。この映画を自ら進んで観に行く理由があったとすれば、その事は唯一の理由にもなりえた。そのくらい、あれはすごいパワフルな作品だ。

また最初に戻るが、山口洋さんや、ライヴについても映画について、もっとも信頼できるレビューをMixi日記で友だちに向けてしか書いていないライヴ・ミシュラン(仮名)が絶賛していたので、これは間違いなくすごい映画に違いないと確信していた。あ、あと町山さんね。町山さんの映画評はホントに参考になる。

…とこれだけ要素がそろっても、なかなか観れなかったのだが、先日やはり同じくやっとこの映画を観たという友人がFBで感想を公開しており、かつそれに対して別の友達が田端でまだやってますよ、とコメントしていたのが背中を押した。そう、田端でやってる,ってのも良かった。この田端の映画館、ネットで観てちょっと興味もあった。一度行ってみたいなぁ、と。(そう、今、ウチはプロモーションしなくちゃいけない映画を1本かかえているのだ…これ

そして、最近アメリカで公開されたという、この映画に対するアメリカ人の感想がまた良い。各新聞に載った映画評を読んでいたら、また興味が湧いてきた。

前置きが長くなった。それでやっと昨日この映画を見れたのだ。そのくらいひねくれた私でも、この映画には圧倒された。これは間違いなくすごい映画だ。映画を観て1日たった今でも、まだあれこれ思い出したりしている。2度、3度みたいという人が多いのもうなずける。

まず映画のテンポがすごくいい。生活上の素朴でしかし温かなエピソードがいくつも紹介され、クスリと笑う場面がたくさんある。私も上記のアメリカ人同様「まだ戦争始まらないのかな」(いや実際始まってるんだけど空爆がひどくなるまでは、やはり何も感じられないのだ。8/6の広島のことが分かっていても)と思ったりしたが、とにかく長い映画なのにそれを感じさせない。そして、あまりに牧歌的な生活との対比なのか、実際に空襲が始まると、爆撃の音や画面描写に圧倒されてしまう。

そして、すずさんの声がいいね! 能年さんは間違いなく素晴らしい女優だ。あの声にやられてしまった感じはある。見終わった後も、いつまでもいつまでも心に残る声である。そしていじわるな義理の姉も良かった。彼女がすずさんに「私はどんなにたいへんでも自分で選んだ人生だから後悔はないって言えるけど、あんたは!」みたいな感じで詰め寄るところがあって、それは私のすずさんに対する気持ちを完全に代弁してくれていた。そこからは、もうこの映画のすべてが好きになった。すずさんも、この映画に出て来る登場人物、どれも普通だけれど最高に魅力的だ。

映画のエンディングですずさんに手をふられて、おもわずこんな意地悪な私ですらも手をふりたくなった。手はふらなかったけど、会場の他の人たちにうながされて、滅多にやらないことだけど映画で最後に拍手をした。この個性ある劇場の温かい雰囲気も手伝った。

もうすぐDVDが出るみたいだけど、是非スクリーンで観てほしいな…これは。田端でまだやってます。小さな場所で、平日の昼間でしたが、満員でした。30分前に行ったので入れましたが、開演ギリギリだとちょっと難しいかも。予約していった方がいいですね。

映画の公式サイトはこちら。