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2017年9月10日日曜日

映画「サーミの血」を観ました。#サーミの血感想


映画「サーミの血」を試写で拝見しました。日本での配給アップリンクさん。そしてご案内いただいたノルウェー大使館さん、ありがとうございました。実はこの映画を観るのは2度目、でも日本語字幕付きで観るのは初めてです。

先日の出張で機内で観て、すごくいいなぁと思って(1回目の感想はここ)一度ちゃんと日本語字幕付きでも観なくちゃ、と思ってたんです。そして2度目に観ると細部があれこれ分かって、さらに良かったですね。前にも書いたけど静かだけどパワフルな映画。その感想は変わりません。

左の写真はノルウェー大使のご挨拶の様子。

映画をざっくり説明しますと、妹のお葬式に参加するためにサーミの村へ帰って来た老女。教職を退職し、しっかりした息子と可愛い孫もいる。嬉々としてサーミの民族衣装を着せられ喜ぶ孫娘とは反対に、老女は親族達に対して偏屈な態度をつらぬきいます。その彼女の過去への回想で話は進んで行くのです。

1930年代。サーミ族は、いわゆる親が遊牧生活をしている事から、子供たちはみんな全寮制の学校に強制入学させられ、サーミ語を話すことを禁じられていました。(この辺、グリーンランドのイヌイットとも、とても良く似ています。なんというか、良かれと思って国の制度がそう強制しているのが、ますますたちが悪いんだけど…)そんな中でも学校では気丈にも勉強をがんばり常に優等生のエレ・マリャ。先生も彼女を気に入り、自分の部屋に招いたりコーヒーをご馳走し本をプレゼントしたりして目をかけてくれる。でも先生は彼女にあなたが学校に進学することはない、と告げるんです。あなたたちの脳はそう出来てはいないのよ、と。

そうそう大学都市「ウプサラ」(ヴェーセンのホームですね)が会話の中にもたくさん出て来るんだけど、いわゆるエレ・マリャが憧れる「インテリ都市」って感じに扱われていて面白かったですね。英国で言うところのオックスフォードやケンブリッジって感じでしょうか。映画に出て来る街のロケは全部ウプサラだったのかも。確かに私が何度か訪ねたことのあるウプサラの印象は似たような感じだったけど…。公園の感じがヴェーセンのKeyed Upのベンチがある公園に非常によく似ている(笑)

話がそれた… そんな風に差別的な言葉をあびせられたり、まるで動物のように測定にかけられたりとひどい扱いを受けるんだけど、彼女が自分の怒りの気持ちを語ったり泣いたりすることは絶対にないんです。ないんだけど、ものすごい説得力というか迫力というか…彼女の気持ちが痛いほど伝わる映画です。なんていうか、黙ってても、すごい語るというか…そんな素晴らしい主役の彼女は、レーネ=セシリア・スパルロクって本物のサーミ人。妹役の子も素晴らしいんだけど、なんと本当の妹なんだって。2人に対する監督のディレクションっていったいどんな感じだったんだろうか… 監督は同じくサーミの血をひくスウェーデン女性のアマンダ・シェーネル。

監督がインタビューに答えて話していたことに「“血”という言葉をタイトルに入れたかった」。そして「思春期の少女が持つ可愛らしさよりも暴力性を伝えたかった」。これもなんだかすごい理解できる。確かに“血”というのもので連想するものは、逃れられない,自分ではどうにもならない自分につきまとうもの。そして生理がはじまった時のあの感覚。

監督によれば、実際に監督の親族にもサーミの伝統に留まった人たちと、アイデンティティを変えた人たちとの断絶はあるのだという。

この映画のコピーや紹介の文章に「自由をもとめて」とか「自由をつかみとりたい」とかいうキャッチフレーズがよく出てくるのだが、私はなんだか違うと思った。果たしてエレ・マリャが「自由」とは何か、具体的に認識していたとは考えにくい。「やりたいことをつらぬく」とか「信念をまげない」とか評価している感想も見かけたけど、うーん、違うんじゃないかな。彼女は自分のやりたいことが分かっていたわけではない。ましてや信念なんてありはしない。ただただ、彼女はそこから抜け出したかったんじゃないかな。 ただただサーミの文化の中にある自分を嫌悪していたのではないか、と私は考える。何より差別をしているのは、彼女なのだ。そこに秘められた彼女の暴力性が感じられるし、それによって人を傷つけることをいとわない感覚も感じられる。そして自分のそんな態度で、自分自身も結局ひどく傷つく。彼女は仲のよかった妹とは断絶してしまうわけなのだ。

それにしてもあの姉妹が冷たい雪解け水の中で遊ぶシーンは、すごく良かった… 空気が冷たい。でも太陽はキラキラして、寒いんだけど温かく2人を包む。2人の長い髪が濡れる。そして寂しい時、歌うヨイク。本当に素敵。でも、そんな、すべてが本当にせつなく、悲しい。

でもこれは彼女が選んだ道なのだ。だから後悔はないと思うし、映画は旅立ったあとの彼女と孫まで出来た彼女の間の期間はすっとばしているので、何が起こったかは分からない。でも成功だったのだと思うよ。憧れの教職につけて、可愛い孫までいて… ただ妹の葬式にやってくるシーンだけで「失ったものは大きい」と決めつけるのもよくないように思う。まぁ、こういうことが人生なのだ、という結論でいいのかな。

それにしてもエレ・マリャが力強くこちらを見つめるだけで、もうなんだかものすごいパワーなのだ。素晴らしい女優のレーネ=セシリアとその妹は、今でも普段トナカイを放牧しサーミの伝統的な生活をしているのだという。そして「私は自分の仕事に誇りを持っている。私たちより前の世代はサーミの血を嫌悪した人も多いのだけど、私の世代は自分たちのルーツに誇りを持てるようになった最初の世代じゃないか」と語る。そんな彼女がまぶしい。

そしてやっぱりすごいのは、こういった映画を作ることで黒い歴史をも見つめ直し、自分たちで努力し、より良い世界を作って行こうとする北欧の真面目さとパワーだよね。簡単におしゃれで福祉/教育が充実してて老後の心配ない北欧はいいなとか、ノルウェーいいなとか…それでは何も学べないと思う。問題を直視し、何が問題だったのかきちんと落とし前をつけていく。そういう北欧の前進する力に学びたい。

本当にパワフルな映画です。ぜひ観に行ってください。来週いよいよ公開。劇場リストはこちらを参照に。都内は新宿武蔵野館、アップリンクなど。



興味を持たれた方は、是非読んでみてください。 レーネ、なんだかあか抜けてて素敵な感じ。東京仕様かしら(笑)彼女の将来、そして監督の次回作も楽しみですね。

PS
アップリンクの浅井さんのインタビューすごくいい。そう,泣かないんだよね、この映画。妹が1回だけ涙をみせるんだけど。基本的に泣かない。そこがホントにいい。