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2017年11月9日木曜日

エリノア・マケヴォイ「トマス・ムーア・プロジェクト」



ウォリスがいなくなって寂しい日々だが、昨日は実は久しぶりにアイルランドのシンガー/ソングライター、エリノア・マケヴォイと会ってご飯してきた。エリノアはご存知の人も多いと思うが、ざっくり紹介すると、メアリー・ブラックのフィドラー/キーボード奏者として日本に初めて91年に来日し、その後、メアリーとデュエットした彼女の作曲である「A Woman's Heart」がアイルランドで大ヒット。(David GrayのWhite Ladderにやられるまで、アイルランドで一番売れたアルバムはこれだった)ヒットがもとでシンガー/ソングライターとしてユニヴァーサル(だったかな?)と契約し、アルバムを何枚もリリース。その後、インディペンデントになったけど、真面目にレコードをリリースしツアーを重ね、アイルランドの女性SSWの代表的な存在になった。あの一発の桁違いのヒットはラッキーだったと思うけど、その後のしっかりした着実なキャリアは彼女の「音楽愛」と「地道な努力」のたまものだ。私は確か5年くらい前にポール・ブレイディのUKツアーで前座を務めた彼女と再会。ツアーで、2、3日一緒に過ごしたんだけど、あれも楽しかったよなぁ。

で、なんでその彼女が日本にいたかというと(来日は91年以来だそう)、ここ数日JASRAC主催で世界中の音楽著作権団体の世界的カンファレンスがあったのだ。エリノアは、なんとIMRO(アイルランドの著作権団体)の会長で、アイルランドを代表してこの仕事のために来日した。実際、日本に来る直前まで3週間ドイツをツアーし、帰国翌日にはスコットランドで公演があるなど、超売れっ子の彼女なのだけど、この仕事は、また別の新しい側面ですごく楽しめているという。いいね! 

ミュージシャンがこういう職につくと、現場と役所の間に挟まれて、すっごいフラストレーションで大変だと想像するのだけど、 前向きな彼女の姿に、私もなんだか嬉しくなった。これは世界中の著作権団体の会長さんが集まるカンファレンスだったのだが、女性がこの職についているのは、アイルランドと、他にはアフリカの小国、あとどっかの島(笑)かなんかで、全部で4ケ国しかないそうで、音楽ビジネスって、そういう意味では一番コンサバな世界なのかも、と思った。他の国はだいたいレコ社を定年で退社したジイさんたちが着くことが多いからね。日本の場合はどんな人だったっけ…? カンファレンスでは文科大臣も来てスピーチをしたらしい。

エリノアは「今、音楽業界は大変な時期だけど、あと5年もしたら持ち直すと思う」「みんな真剣に音楽のマネタイズについて考えている」「あと5年生き残れたら、たぶん最後まで生き残れる」とか言ってて、なんか私はめっちゃ勇気をもらったのだった。

ま、何はともあれ、そんなわけで久しぶりに彼女と話したのだが、そこで、上のTwitterでも紹介したけど、こういった新しいプロジェクトに取り組んでいると言う話を聞く。

トマス・ムーア。コノポーザー。日本でも有名な「庭の千草」を書いた人で、確かにエリノアの言うとおり不遇の人かもしれない。もともとれっきとしたカトリック系のアイリッシュだし、アメリカで曲をいっぱい書いて大成功したんだけど、なぜかアイルランド人は彼のことをよく思っていない。

確かにかなり「チーズくさい」曲ばかりであり、優雅に「私のおじいちゃんが移民してきた時は」なんて高級ティーセットで優雅に紅茶を飲むアメリカで成功した大富豪アイルランド人が気取って行ったこともない故郷のことなど語る時に聞いている音楽、というイメージなのだ(はい、すみません、私もそう思っています)。そんなのは伝統音楽とは呼ばないぞ!というのが、アイルランド人たちのご意見(笑)

一方で似たような時代に活躍したロバート・バーンズはスコットランド人はほぼ全員に愛されているのに、なぜアイルランドのトーマス・ムーアはこんな仕打ちを受けているのか、ということで、エリノアはトマス・ムーアの再発見プロジェクトに着手した。実際、回りの人でこのプロジェクトに賛成した人は誰もいなかったという。

確かに今の「ケルト好き」はみんなイエーツ、イエーツ、イエーツで、トマス・ムーアやジョイス的なケルトを認めていない。なんか分るような気がする。私も実はイエーツって、ちょっとオカルト趣味なところがあって、ついていけない時があるんだ、ホントは。(またその点ででしゃばってくる妻の存在も大嫌い)…とか言っちゃうと問題かな。ま、そもそもこの点については、あれこれ偉そうに語れるほど書物も何も読んでいない(笑)

何はともあれ、この素敵な「The Last Rose of Summer」=「庭の千草」を聞かないテはないと思います。ミュージシャンも豪華で、Damn Butcher (Beautiful South)他が参加しており、ジャズなフィーリングと、フリューゲルフォーンがいい味を出しているバンド・サウンド。

それにしてもエリノアと会えたのは嬉しかった。私も興奮して、いかにウォリスが素晴らしいか、そしてこれから取り組む中央ヨーロッパ企画を話したり…。

ちなみにウォリスとエリノアはすごく仲良しで、私がエリノアが日本にいるのを知ったのもウォリスのツイッターからだった。エリノアが話してくれたんだけど、Woman's Hartの2回目のツアーの時、音楽監督やってたエリノアは「若い子も参加させよう」とウォリスを誘った。で、リハをしなくちゃってことで、出演者全員に召集がかけられたのだけど、そこにウォリス(まだ超若かった)はちゃんと時間通りにやってきたんだって。で、すっごく真面目に参加してくれた、それはウォリスだけだった、ってエリノアは言ってた。他の連中は「リハはいやだ」と言って酔っぱらったり(誰か分るよね…/笑)、全然時間通りに来なかったり(これも誰か分るよね…/笑)、ホントに大変だったんだけど、ウォリスはいつきちんとしてる、って。ウォリスのあとはチーフタンズの話になり、エリノアもパディはホントにすごいって言ってた。そんな風に真面目に頑張る人たちは、その人のことを考えるだけでも、すごく私たちの励みになる。

うーん,元気が出るなぁ。元気に頑張ることは、ほんとに友達想いの行為だと思うし、なんていうか、いい友達ってしょっちゅう会う必要はないし、SNSでしょっちゅう「いいね」しなくたっていい。ただ会えば、もうパッと分かるんだよね。エリノア、素敵な夜をありがとう。私も負けないように頑張るよー。

ってなわけで、これちょっと聞いてみて! トマス・ムーアじゃないみたいでしょ? 今まで彼の曲が嫌われてきたのも、要はアレンジ、そしてこれをどう伝えるか、というパフォーマーの力量が足りなかったせいだったんじゃないかな、と思えてきた。