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2018年4月11日水曜日

村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』を読みました。かなり良かったかも。

村上春樹嫌いを公言している身としては、これを読むのはどうかなーと思ったのだけど、実は最近知り合ったウチのミュージシャンが影響を受けた本の1冊としてあげていたので、彼への理解を深めるため、仕事用の資料ということで読んでみた。

なんで村上嫌いなのかというと、海外のアーティストが大好きな「ムラカミ」「ミシマ」は、どうも妙な美意識があるというか、いわゆる「ナルシスト男の恰好つけ」が面倒くさいと思っている私としてはどうも苦手なのであった。いや、男のナルちゃんで仲良しいますよ。友達でそういう人多い。でも奥さんは大変だろうな、と思う。うーん、これだから嫁の貰い手がないのか?!

しかしホントに海外の村上好きは多い。この本の名前をあげた彼だけに留まらない。そして、村上好きには(特に海外の村上好き若い男性には)共通する「何か」を感じてしまい、私は心の中で「付き合いきれないぜ」「それよりもっと大事なことあるでしょ」と、ちょっとげっそりするのだ。それは私が、大親友だと思っているこの本を選んだ彼の中においても、あまり好きな部分ではないのだ。

端的に言ってしまえば、なんで登場人物はセックスと死についてばかり考えているのか? そこがまず共感できない。なんで簡単に人が死ぬのか。「えっ、死んじゃうわけ?」っての共感できない。もちろん『風の歌を聴け』『ノルウェーの森』は、私の世代としては当然読んだよ。大学時代、友達みんなが読んでたから。私は「ふーん、これが小説か」と思った。高校時代まで私はホントに本を読まない人間だった。というか、好きな本ばかり何度も読んでしまい、いわゆる漱石とか、太宰とか、カラマーゾフのなんちゃらとかは一切読まなかったし、今も読んでいない。その代わりブロンテと遠藤は何度も何度も読んだ。何度も好きなところを味わう読書が好きな私には、初めての本を読むことにたいする体力や筋力みたいなものが全くなかった事もあるが、読んでる時は「なるほどこれが流行っているのね」と思ったものの、それだけで、村上に特に共感することもなかったし、素敵だなぁとも思わなかったし、とにかく印象が薄すぎて,何も覚えていない。

今、大人になって村上を読んでみると… なんというか、登場人物のすべてが、超面倒くさい。なんかみんなかっこつけてて、夢中で生きてない。本当にかっこいい人というのは、目の前の好きなことに夢中になっている人のことだ。自分が何を着ているとか、何を読んでいるとか、どんな音楽を聴いているとか、女はこういう女がいいとか、いちいち男がそれを語るたびに、もうホント面倒くさくて、面倒くさくて(笑) 人生にはもっと意味のある大事なことあるでしょ?と、オレなんぞは辟易してしまうのだ。(何度も言うが、しかし嫁に行くのを諦めたわけではありません/笑)

それよりも角幡唯介さんや高野秀行さんが着ているヨレヨレのTシャツ(どちらのブランドなのかしら)の方に、私は興味があるのだ。ゼノギアスの光田さんも。とにかく好きなことに夢中になる。これらの人たちは恰好つけで生きてない。それだから信じられる。それだからかっこいい。

随分前に読んだ『羊と鋼鉄の森』は、セックスと死と嫌味がない弱い村上みたいな文章だった。それでも双子とか、驚くべき才能うんちゃらとか、ちょっとファンタジー色というか、ファンシー色というか、いちいち現実味がないので、やっぱり私は乗り切れなかったかも。でも世の中では、こういうのが流行っているんだよね…。いや、あれは、でもすごいいい話だと思ったけどね…。

ま、それはさておき… しかしながら、このエッセイは、そんな私でも比較的苦痛なく読めた。いつだったか「これはいいよ」と言って和田静香が教えてくれた『遠い太鼓』も嫌いじゃなかった。何せ村上さん、当然のことながら文章は抜群に上手い。「考えながら書く」と村上さんは言っているようだけど、こんなに自分の思考を綺麗に言語化できる人は、他にはいないだろう。ただ『遠い太鼓』あまりに長くて、途中で読むのを辞めてしまった。最後まで読んだら,面白いことが書いてあったのだろうか。

というわけで,続くこの本である。総じて、私もランナーとしての村上に共感を得ないわけでなかった。ただ私はもっと徹底していて、誰かと一緒には走らない。わざわざお金払ってマラソン大会なんてもっての他。でも分からない。団体行動しないのは、そこで自分が満足する自信がないからであって、もし「いける」と思えたら私も嬉々としてマラソン大会に参加していたかもしれないからだ。

いずれにしても、そう、私も他人を相手に勝ったり負けたりすることには興味がない。というかアイルランド人みたいに勝ったことないのに「負けたと思ってないおめでたい自分」というのが大好きである。だから、実は「勝ち負け」は大好き。何でもあれこれ思考を巡らされて「〜に勝った」とか心のなかで思うのは、大大大好きなのである。が、大勢の人と並べて順位がどうとか、そういうことにはまるで興味がない。しかも荒川土手に住んでいて、毎日都内でも最高のコースを走ることが可能な自分にとって、マラソン大会に5,000円とか払って出場するなんてバカげていると思う。

話がそれた。そう、ポールがいつか言ってたが「スポーツは大好きだが、僕はチーム・パーソンではない」っての、私にも言える事だ。1人で簡潔する普段のランニングは、ほんとに私に向いている。

村上さんが、ジャズ・クラブのような店をやってた時の話もおもしろかった。 経営は楽ではなかったけど、周りから「うまくいくはずがない」と見られながらも頑張った。「勤勉で我慢強く体力がある」というのが自分の取りえ… って言っちゃえる村上春樹は、すごいよね。だって世界の村上だよ?(笑)

あと「小説家になろう」と思った瞬間の話。ちょっと共感したわ。私もたとえば「レーベルはもう喰っていけないから、あと3年かけてプロモーターになろう」と思った時のことはピンポイントで説明できるし… うん,人生ってそういう感じよね、と思わず共感ポイント大(笑)

本当に若い時を別にすれば、人生においては優先順位をつけるべきだ、という話も。そして「僕の場合はもっとも重要な人間関係(リレーションシップ)とは、特定の誰かのとのあいだというよりは、不特定多数の読者とのあいだに築かれるべきものだった」と言えるのもすごいと思ったね。と同時に「みんなにいい顔はできない」というのも面白い。つまり村上が生活を安定させ執筆に集中できる環境で少しでも質の高い作品を生み出すことを多くの読者はのぞんでくれている、それを優先したい、ということ。だからそのために自分の交友関係を限定させるのは当然なのだ、ということ。うん、これ分かる…

あと「走り続けること」が性にあっていた、というのもいい。だから彼が「ランニングを誰かに進めたことは一度もない」と書いているのは、なんかちょっとかっこいい。そして、ちょっと負けた気分。さすが世界の村上だ(笑) オレも人に薦めるのは辞めよう…

あと小説を書くことについて。もちろん「才能」は必要だけど、「才能」を持ち主が上手くコントロールできるかは別だ、というのもいい。優れた才能を短期間で昇華させてあっという間に散るのもかっこいいけど、自分たちには参考にはならない、とも。

あと書く時に必要なのは「集中力だ」いう村上は言う。そして「持続力」も大事だ、と。ちなみに才能とちがって、この2つは訓練できるよ、と。

あと世間には時々走っている人に向って「それほど長生きしたいかね」と言う人がいるが、「長生きしたいと思って走っている人はいない」というのにも共感した。「ぼんやりと生きる10年よりは、しっかり目的を持って、生き生きと生きる10年」走ることはそれを確実に助けてくれる、と村上は言う。「与えられた個々人の限界の中で、少しでも有効に自分を燃焼させていくこと。そしてそれがランニングというものの本質」。いい事言うねぇ。

あと「誰に頼まれてやっているわけでもない」人生というのも、共感ポイントだったな。ランニングも、小説も、ある日突然、自分が好きではじめた。「何によらずただ好きなことを、自分のやりたいようにやって生きてきた。たとえ人に止められても、悪し様に非難されても、自分のやり方を変更することはなかった。そんな人間が、いったい誰に向って何を要求することができるだろう?」 あぁ、この最後の疑問文が、ちょっと響く。ホントにそうだわ…

「僕は空をみあげる。そこには親切心の片鱗のようなものが見えるだろうか」「僕は自分の内側に目を向けてみる。深い井戸の底をのぞきこむみたいに。そこには親切心が見えるだろうか」「いや、見えない。そこに見えるのは、いつもながらの僕の性格(ネイチャー)でしかない。個人的で、頑固で、協調性を欠き、しばしば身勝手で、それでも自らを疑い、苦しいことがあってもそこになんとかおかしみをーあるいはおかしみに似たものをー見いだそうとする、僕のネイチャーである」これ… 私がいつも走りながら考えてる事とかなり近い。やばい。

「僕らにとってもっとも大事なものごとはほとんどの場合、目には見えない(しかし心では感じられる)何かなのだ。そして本当に価値のあるものごとは往々にして、効率の悪い営為を通してしか獲得できないものなのだ」(あ、やばい、めっちゃ響く!)

そしてやっぱり最後の「少なくとも最後まで歩かなかった」には、ちょっとグッと来たね。

と、まぁ、毎度、私のエッセイの読み方は、自分の共感ポイントを拾う作業になりがちなのだが、でもそれでいいのだ。角幡さんが言ってた。読者は、本の中に自分を発見する、って。自分の中にこんなに「村上春樹性」があるなんて、思いもしなかった。好きな本の1冊にあげてもいいかもしれないな、とちょっと思った。 あと、また早く走りたくなった。ここ1週間、まるで走ってない。