サラーム海上『ジャジューカの夜、スーフィーの朝〜ワールド・ミュージックの現場を歩く』を読みました。素晴らしい! 現場感溢れるレポート。

かっこいい、ちゃんじー(いやですねぇ、業界人)が表紙のサラーム海上さん『ジャジューカの夜、スーフィーの朝〜ワールド・ミュージックの現場を歩く』を読みました!!

あっという間に読めちゃったよ。すごくいい本だった。言ってみれば、これはサラームさんの「出張レポート」だな。まさに「現場」からの声を伝える出張レポート。外国での出張レポートもあるが、国内ツアーのドタバタ来日ツアー話もあり、そんなのは、特に無条件でめっちゃ面白いのであった(いや、でもめっちゃ大変そうなので笑ったら失礼なんだけど!)。とにかく充実の内容だ。

バラしてしまうが、今みたいに音楽業界不況と言われるこの状況では、実際、海外の音楽の評論を生業としている方たちさえも、海外行かないまま書いてる人がほとんどなのだ。でもこれは仕方ないことで、例えばそういう仕事をしていたとしても、招待旅行の話が充分に来るわけでもないし、自費で取材旅行に行ったとて、かかった取材費をリクープすることはほぼ不可能に近いから、本当にみんな大変なのだ。だから、安易に他のライターや評論家を攻めるわけにはいかないが、これだけいろんな現場を実際に訪ねて、見て、聞いて,説得力のあるレポートをちゃんと発信している人はサラームさん以外、今、いないんじゃないだろうかと思う。本当に考える。本来なら、レコ社やプロモーターたちが、多くの音楽ジャーナリストの人たちを現場にどんどん送りこまなくてはいけない立ち場なのに、それが出来る余裕があるところなど、今やどこにもない。だからそれは私たちプロモーターやレーベルの責任でもあるのだが。

そんな厳しい現状の中、サラームさんは本当に頑張っている。ちゃんと現場に赴いて、そこでの空気と同時に音楽を感じとり、それを私たちに伝えてくれているのだ。だから説得力があるのだ。この本は紀伊国屋「Scripta」に連載していたものを書籍にまとめ大幅加筆したもの。それにしても、ずいぶん前にも書いた事あるけど、サラームさんがワールド・ミュージックのイメージ・アップに貢献した功績は大きい。もちろん情報の量もそうだけど、それまで、どうもワールド・ミュージックって貧乏くさくて、暗いもんだったんだよね。それをこれだけポップにかっこいいもの?(ちょっと上手い言葉が見つからないが)にしたのは、サラームさんの功績が大きいと思う。もちろん例えばWAVE六本木とか、90年代のパリを中心としたブームとか、いろんなことが重なった時代の流れの一環なのかもしれないけどね…。それにしても海外出張中の、フェスとかに呼ばれて1日に6本も7本もライブを見て、もう頭がぼーーっとしてくる時差ぼけの感じとか…、私もちょっとリアルに思い出してしまった(笑)。ホント、ハードスケジュールなんだよなぁ。あぁいうの…

でもそれでもなんとか現地の音楽を自分の感覚で捉え、現地の声を日本に届けようと努力する、それしか海外の音楽を生業にしているものの進むべき道はないのだけど、これが、まぁ、イバラの道なんだよね…。サラームさんにとっても、私にとっても。

そして、この本には私もかなり好きなアーティストの話も裏話をまじえて、たくさん載っている。まずは映画でも話題になったサッチャル・ジャズ・オーケストラ(来日公演は見れなかったな〜)とか…



ヤスミン・ハムダン。彼女とは一度仕事させてもらった経験があるので、ある程度インタビュー記事などもフォローしていたつもりだったけど、ソープキルズのもう1人の方の話を聞くのは初めてだったし、いろいろ考えた。彼はレバノンに残り、ヤスミンはレバノンを離れてパリに渡った。



そしてBoom Pamも、やっとどういうバンドか理解したという、めっちゃ後発隊のオレ。すっごい話題になったよね、このバンド。っていうか、やっぱりこのくらいの情報量がないと音楽誌に載るインタビュー記事とかだけじゃ理解が及ばないと思う、多くの人は。こんな日本ツアーのクリップも見つけた!



そして第4章では、インド古典のなんたるかをやっと理解した。すごいんだね、インド古典って!!(あぁ、もう5月27日に北とぴあインド祭やるというのに、自分がバカすぎる)こちらの映像はユザーンの師匠、私も大好きザキール・フセイン先生。



そして昨年来日してめっちゃ話題になった「ジャジューカ」。なんとなく理解はしていたもののサラームさんのこの本で、やっと背景が分ったよ。本当にすごいな!!



しかしなんといっても、サラームさんの行くエリアは、紛争や問題がたえない地域でもある。数年行かないだけで、まったく様子が変わってしまった街の話などを聞くと,本当に心が痛む。そこに自分のリアルな友人が住んでいれば、なおさら痛いだろうな…。辛いな…。でもそこにも音楽は常にあって、それを伝えるべく、サラームさんも奮闘していく。

なんというか…私が例えば北欧はいい社会だけど男たちはどうも生命力が弱いとか,ダブリンの街はすっかり変わってしまって90年代にあった可愛げがまったくなくなってしまった、とか、勝手な文句をホザいているのとは、とにかくレベルが違っている。この本に出てくる各地に比べたら西や北ヨーロッパの諸事情なんてたかがしれてる。いや、だから、こっちは重要じゃない、そっちは重要だと言うわけでは決してないのだが…

とにかくそんな事も含めて「現場感」溢れるレポートだ。また3年後、5年後に同じような主旨の本をサラームさんが纏めたとして、きっとこれとはまったく違ったものになるだろう。だからこそ、この数年間を切り取った貴重なレポートでもあるとも言える。

なお,この本、巻末にURLの読み取りコードがあって、そこにアクセスするとYou Tubeのプレイリストにつながる。音楽を聴きながら楽しむのも一興。

しかしスーフィー絶対に来てるよな。ケルトと一緒だよな…。循環する、スピリチュアルな世界…って感じで。

ストーンズの事、さっぱりわかってない私は、これも初めて聞いたのだけど、今、聞いても、震えるほどかっこいいね。